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「お別れでも言いに来て下さったんですか」
ブラックウェルは数ヶ月ぶりにも関わらず、変わらぬ穏やかな空気を纏う部下を見上げた。
小銃を肩にして歩く横顔が、以前にも増して頼もしく映った。
「お前は、未だこっちに居るのか」
「俺とアイツはもう少し…何せ来たのは11月ですから、帰るに帰れないんです」
そう言えばそうか、とブラックウェルは考え込んだ。
何だかもっと前から居た様な気もするが。
ダンはぼんやりと前を射抜いていたが、ふとポケットに手を入れ、此方に視線を下ろして言った。
「少尉、これは上層部に熱烈な俺のファンが居るに違いない…さっさと除隊されないと、俺の未来どころか処女が奪われちまう」
「おいダン、それまさか…サムの真似か」
「良く分かりましたね。俺の隊だと結構うけるんですが」
どうやらエースは他隊でネタにされていた様だ。可哀想に。
ブラックウェルは緊張している自分が馬鹿らしくなったが、それこそがダンの気遣いだとも分かっていた。
「それとも何ですか、俺の身体が御入り用ですか。生憎もう、そんなに安売りしてないんでね」
「阿呆かてめえ…誰が入り用になるか…!」
思わず睨め付けた先、ダンが見慣れた笑みを零した。
懐かしいその表情に閉口し、一寸視線を奪われる。
生涯の中で取るに足らない時間で、それでも面白いほど次々と出来事が浮かび上がる。
初めて目にした時から、今日この瞬間まで。
思い返せば思い返す程、一体何度この部下に助けられただろうか。
「さて少尉、そろそろ出立されないと日が暮れますよ」
歩みを止め、ダンが首を傾けた。
何時の間にか地面に落ちた影が、身長を超えて伸びていた。
「…なあ、ダン」
ブラックウェルは、今度こそ彼の目前に立った。
風に上着の裾を攫われながら、喜怒哀楽の混じった不思議な表情をしていた。
「俺はお前に、本当に、何度も助けられて…その度に、何か返さなければと煩悶して、悩んだ癖、結局今になっても思い付かない」
こうして基地を歩いている自分は、部下が居なければ存在し得なかった。
幾つ、その手から受け取ったのか、もう両手では数え切れなかった。
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