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「俺が?まさか、買被り過ぎでしょう」 ダンは予想通り、その言葉を否定して笑った。 広がり始めた闇にのまれる相手を見詰めて、ブラックウェルの顔が哀愁に歪む。 違う、そんな訳ないんだ。ダン。 どんな言葉で伝えて良いかも分からない けれど、心の底から感謝の気持ちが溢れ出て、 申し訳なくて、ただ最後に、会いたかった。 俯いて言葉を失くす相手を、ダンは目を細めてその瞳に映していた。 儚い西日が作り出す逆光の中で、手を伸ばし、頬を攫ってヘーゼルの虹彩を覗き込んだ。 「…なら、最後に…思い出でも貰えますか」 大きな双眼が、見開く。 意図が知れず、聞き返しかけたその唇を 柔らかく、 全ての想いを乗せて 塞いだ。 西へ太陽が吸い込まれる。 比例して涼しくなる風が、2人の世界を覆った。 触れるだけの、 それでも気が遠くなる程長い、キスをした。 そっと肩を掴まえるだけの呆れるほど優しい行為に、 ダンはたった一言も言葉に出来なかった、抱えきれないくらい深い気持ちを注いだ。 愛していた。 一目見たその時から、この瞬間まで一寸たりとも耐える事無く。 そして恐らく、これからもずっと。 もうきっと一生、形にして貴方に伝える事は無いけれども。 せめて、この感触を その存在を、褪せない思い出として心の中にくれるのであれば。 漸く唇を離した刹那、ダンは放心した相手を見据え、身体を退けた。 既に幾つもの星が瞬く中、ただ焼き付ける様に、その儚い姿を見詰めた。 「…お元気で」 短い別れの台詞を告げ、ダンは踵を返して踏み出した。 生温い夏の夜の基地を、影を引き連れた背中が遠ざかり始めた。 弾かれた様に、ブラックウェルは彼を振り返った。 疾うに小さくなった姿は、もう此方を向く事は二度と無かった。 終わりまでお互いの心の内を、曝け出して見せはしなかった。けれども奇しくも、この時2人が胸中に抱いていた気持ちは似通っていた。 どうか、幸せな人生を。 部下の消えた夜道へと呟き、瞼を伏せた。 次に目を開いた瞬間、ブラックウェルは決然と前を向き、風の中を自らの帰り道へと歩き始めた。 『Overriding Mission』 - Fin - *bibliography World War II 101st Airborne Division United States Army Battle of the Bulge (From Wikipedia, the free encyclopedia) The Ancient Greeks’ 6 Words for Love (And Why Knowing Them Can Change Your Life) What Flowers Mean (The Victorian Flower Code) Stephen E. Ambrose, Band of Brothers.Pocket Books: New version, 2001/9/17. TRIGGER TIME - 101st Airborne WW2 - Bastogne - US Army Center Of Military History - chapter titles by Mother Goose >next, post script

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