Side K 　そろそろ部活行かなきゃな～ってところで見知った顔が目の前を横切ったから声を掛けてみた。 「…ちは、染(ぜん)サン」 　苦々しい表情をして俺を見る。俺の元・後輩。端整な顔を歪めて嫌悪を隠そうともしない。昨年俺が務めた生徒会副会長を今年はこの後輩クンが引き継いでいる。築城冷生(つくしろ　れいおう)。校則違反レベルで伸ばした前髪の下にとんでもないイケメン顔が隠されている。だが浮ついた話は全く聞かない。モテないのかな。訊いたら無視か怒られるだろうな。 「機嫌悪くない？いつもだけど。カルシウム摂る？」 　ジャージの左ポケット。ナッツと小魚が入った小分けされた小袋が連なってるやつ。この子がナッツアレルギーなのは知ってる。僕のこと殺したいんですか。軽蔑の目を向けられるけどそれはいつものこと。でも今日は何か、矛先が違うように思う。落ち込んでいるような…？ 「先輩のトコのサル」 　一瞬何を言ったのか分からなかった。それが言葉通りの意味ではなくて暴言だってことも。 「あぁ観月のコトかな？」 　それで分かる俺も大概失礼なやつだな。 「ちゃんと繋いでおいてくださいネ？」 　嫌悪だの軽蔑だのを孕んだカオを覆い隠して、絹みたいな肌にある少し血色悪い唇が綺麗に吊り上って、ああ出たよこの子の二面性。でもひとつ言わせてよ、これ今日二度目なんだけどさ、俺まじで飼育委員じゃないんだよね。