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Side W
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あれ、何してんのって声掛けてきたのは小松。学校帰りなのか制服のまま。
「お~何してると思う?」
もうすぐ夜って時間帯。小松は知らないよって笑ってる。あのガキんちょに殴られたんだっけか、そういえば。そんなカンジしなかったし、今もしないけど。
「あ、分かった夜遊び?」
「朝比奈とさ、付き合うことになった」
小松になら言ってもいいだろ。小松は少しだけ目をカッって開いて、でもすぐにいつものヘラッヘラした笑顔に戻る。
「すっごい進展だね」
苦笑して小松はオレの背中を叩いた。こいつは大したことないことでも喜んでくれる。オレが赤点じゃなかったことでも、売切れやすい焼きそばパン買えたことでも、何でも。
「それで家、送ってきたとこ」
「…いきなり紳士になっちゃって、まぁ」
「ばっか、オレはやさし~んだよ。付き合ってる相手には特に」
小松は、はははって笑って一瞬真顔に戻る。どうした?結構殴られたところ痛い的な?
「まぁ頑張れよ」
「あのガキんちょには何て言うかな。それはアイツから言うか」
さぁ小松、どう出る?
「そのまま言えばいいんじゃない?」
ガキんちょに殴られたってやっぱデマじゃね?一瞬だけ真顔になった以外はフツー。いきなり腹でも痛くなったとかだったのか?
「なんなら俺から言うし」
「小松さ」
あれこれ遠回しにいくのはオレの性に合わねぇわ。
「殴られたんだってな」
「どいつもこいつも情報早くない?」
小松は笑った。フツーじゃん。何して殴られたんだ。なんで殴られたんだ?
「何したんだよ。あのガキもまさか人殴るなんてな」
「う~ん、俺がちょっとカワイガリすぎちゃったかな」
可愛がりすぎたって何したんだこいつ。
「カワイガリ過ぎちゃった、ねぇ」
小松はそうそうって何度も頷いてそれから空を見上げてる。何考えてんだかな。こいつもあのガキんちょもアイツも。
「ほら、冷生ちゃんかわいいから」
思ってたことそのままの返し。お前があのガキ可愛がってんのは知ってるって。
「そのカワイイ冷生チャンがお前殴ったって、泣いてたよ」
「誰が」
いや誰がってお前、流れ的に決まってるでしょ、フツーに。
「朝比奈」
「…ホントにさ、みんな情報早くない?どこまで知ってんの」
冷生チャンが職員室に呼ばれたって言ってもいいやつなんかな?アイツから聞いたことそのまま話す。すっごい興味無さそう。車道に飛び出てる小石を歩道側に蹴りながら歩いてる。
「お前らが喧嘩したのおれのせいだ~って言ってさ」
ふぅんって小松はやっぱ興味無さそうだった。
「それで付き合って、ってさ。でも好きな人、他にいるらしいんだわ」
自分で言っててイミ分かんないけどな。まぁそういうのもアリだよねイマドキって小松のテキトーな相槌。アリなのか?
「好きなやつと必ず結ばれるとは限らないし、結ばれたやつのこと好きなるかも知れないなら、結ばれておいた方がいいよ」
…?好きになる?アイツが?オレを?好きに、なるのか?オレも、アイツを?
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