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Side K

Side K  飼育小屋の前のベンチは日当たりが良い。ここで何度も寝こけそうになった。ウサギ小屋と軍鶏小屋の間には少しスペースが空いている。もともと飼育小屋は畑の上に作られていた。このスペースには死んじゃったルンちゃんが埋まってる。1年の時にやって来て、俺が名前付けた。名札も作ってさ。最初に死んじゃった。まぁ学校で飼われてる誰も見向きもしない、飼育委員に放置されてるウサギだし、家で飼ってるペットの方が綺麗だし可愛いしね。ルンちゃんの墓があった場所にしゃがみこんで両手を合わせる。真っ先に懐いてきて、よく食べる子。懐かれるのはいつだって面倒臭い。 「小松先輩?」  今日も来たの。朝比奈が野菜の切れ端が入った袋を持って俺の背後に立っている。 「やぁ、朝比奈、おはよ」  声ガラガラ、目、赤いぞぉ。朝比奈は気不味そうに視線を彷徨わせている。そっか、俺が殴られたこと知ってるんだっけ。 「何してるんですか?」  そうだよね、気になるよね、空き地に向かって両手合わせてしゃがみこんでたら。 「ルンちゃんってウサギの墓があってさ。ここ。今もうないけど。今日月命日だから」  大きな目を広げて、そうだったんですか、っていう朝比奈はやっぱり綺麗で。何が綺麗かは知らないけどさ。まぁ超今更ってやつ。 「なんで“ル”だけいないんだろう、って思ってました」  ガラガラ声が少し和らいで朝比奈の声になっていく。お前、観月選んだんだな。それなら俺、殴られた甲斐あったわ。でもごめんな、冷生ちゃん。 「他の子よりもともと小さくてさ、身体弱かったのかも」 「月命日には、いつもこうして…?」 「うん、まぁ、来られたら」  でも思ったよりは長かった。それで俺によく懐いてた。ウサギも懐くんだね。俺の思い上がりだったのかな。 「小松先輩」  呼ぶなよ。もう俺のコトなんて呼ぶな。俺の世界に入ってくるなよ。 「鷲…観月先輩とお付き合いすることに…ッなり、ました…」  知ってるよ。聞いたよ、観月から。おめでとう、そう言ってやればいいの?ってかなんで泣きそうなの。君が選んだひとつの方法なんだよね?自己犠牲は何より面倒臭い自己陶酔だよ。俺酷いかな。そんなつもりないよ。俺が酷いなら君の選択だって十分酷い。 「そう。じゃあ俺もそろそろ観月から離れなきゃね」  俺、笑えてるだろ。残念だけどお前のその泣きそうな面には触れられないよ。そういう資格とか、そういうもんじゃなくて、自分のプライドがさ、許さないんだわ。 「じゃあ、ね。観月のこと、よろしくね」  あの浮気男がまさかカノジョ全部切ったとかいうから驚きだよね。結構本気になってるんじゃないの。でも肝心の本人がよく分かってないみたい。朝比奈の右耳のピアスがぴかぴか光って、何か求められている気がして、でもそれが何か分からなくて。俺にとってはありがたい選択だけど君のこと好いてる冷生ちゃんはまじで救われないよね。バカだね、朝比奈。 「おめでとう、心の底から祝福するよ」

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