Side K 　これ夢じゃないね、って思ったのは抓られたからで、これ冗談じゃないやつだって思ったのは唇に唇が触れたから。別れてからキスするかフツー。いや、交際中もキスしたことないから初めてなんだけどさ。とんでもない美女が目の前に広がってるのが大変ありがたいけど、中身知ってると途端にダメ。動けない俺を冷めた顔立ちがすこし照れたカオして俺を見てる。俺そこまでされるほどの男かな。 「分かったよ」 　でもきっとこれが尻の拭い方なんだろうね。脅迫じゃん。 「結婚しよう、じゃなくて婚約ね。俺まだ結婚できないよ」 　法律マジありがとう。玄関を開けたら眩暈がするほどの美女がいて、しかも元カノジョ。弟殴ったの怒られるだろうな罵倒されるだろうなって思って、そうしたらそんな様子は微塵もなくて、むしろ、ヒモでいいから結婚して？ってこれ俺の妄想？いや俺の妄想なら相手選ぶよ、元カノじゃなくて。っていうか母さんの前でキスしてくるとは思わなかった。俺が拒否できないこと大前提なの、やっぱ多分弟くん殴ったこと知ってる？母さん少し照れてんじゃん。でも喜んでるでしょ、相手大金持ちよ。好きな人と好きなようになさいって母さん言うけど、俺は母さんが推す相手なら誰だっていいのよ。あ～あ観月にはどうやって冗談めかそう。冷生ちゃんには？ 「詳しい話は後で聞くから。今日はもう…ね？今謹慎中だから」 　あえて言ってみるけど、やっぱ知ってるみたいだった。じゃあやっぱ脅迫じゃん。俺そんな好かれてたのかな。好かれてたっていうか、いつもの顔がどうだの、スタイルがどうだのでしょ。顔傷付けたり中年太りなんてしたら一発で捨てられちゃうんじゃない、俺。っていうか冷生ちゃんはどんな気分よ、殴る義兄って。 　母さんの前なのにもう一度彼女は俺にキスして去っていく。ぼうっとしてる間に母さんが彼女を見送って、母さんがまた戻ってくる間までぼ～としちゃってて、母さんが泣きながら俺の腕を取って。ごめんな母さんって感じ。俺まじでヒモになるのかな。ヒモになれるかな。それでまじでごめんな母さんって感じ。