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Side A  

Side A    冷生は少しおれを避けるようになった。あからさまじゃないけど。遠慮してくれてるのかな。だって鷲宮先輩と付き合ってるし。おれはきちんと話すべきなのかな。でも何て言えばいいんだろう。冷生は挨拶してくれるし、いつもと同じ感じで、でもちょっと笑い方が固くなった。話す回数が減ったのはおれが鷲宮先輩といるのが多くなったからで。付き合うってこういうことなのかな。だとしたら大変だな。相手と友達と、両立しなきゃいけないんだ。みんな器用だな。鷲宮先輩といえば、小松先輩が大風邪引いて暫く休みらしいけど、鷲宮先輩は心配そうだった。そんなに重いのかな。風邪は万病の元っていうからね、油断はできない…んだと思う。冷生が小松先輩殴ってから間もなくだったからおれも少し心配にはなったけど、でもおれが付き合ってるのは鷲宮先輩で、おれは小松先輩から祝福するよって笑顔で何の躊躇いもなく爽やかに、おれの好きな声で言われたし。フラれたんだな、おれ。フラれるも何も、おれと付き合ってるのは鷲宮先輩。冷生は何か誤解してるのかな、おれはやっぱり冷生にきちんと話した方がいいのかな。  冷生の口から小松先輩を殴ったって言われて、冷生が涙零したのはおれもびっくりした。後悔してるのかな。なんだかんだ仲は良さそうにみえたし。小松先輩と付き合ってほしかったって冷生に言われて、おれはたったひとりの友達に何を気遣わせてるんだろうって思ったけど、冷生にもう小松先輩殴ってほしくないんだよ。でもどうして冷生が殴ったのか、明確な理由は分からないから、それをきちんと話し合った方がいいのかなって思わなくもないんだ。 「冷生」  呼べば切ない目を向けられた。イタズラがバレて説教を待つ犬、みたいな。傷付くことを警戒しているような。 「話があるんだけど」 「…僕も」  冷生にも話があるって割りにはあまり表情はノり気じゃなかった。 「図書館で、いいかな。あまり大声じゃ話せないけど」  冷生が笑う。悲しそうだった。どうしてそんなカオ、するの? 「うん」  一度、多分クセでおれの腕を掴んだ手は力無く落ちた。それからはもう冷生がおれの目を見ることはなかった。図書室に着いて奥の方の読書スペースに座る。冷生はおれの隣ではなくテーブルを挟んだ対面に座った。胃の辺りがキリッとした。おれ、緊張してる。

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