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Side T

Side T  君を初めて認識したのは図書室だったんだよね。小学校の校舎はもう建て替えられちゃって、もう記憶の中にしかない。君は小学校の時の図書館の内装覚えてる?とにかく古かった。でも木目の床と合った大きな読書スペースの木のテーブルが温かくて、室内どの壁も本棚になってて、窓開けっ放しにはするけど暗幕は掛かったままで風でよくはためいてたよね。窓際のテーブルを独り占めしてた、ビン底眼鏡のひょろいガリ勉のジャリガキのことは忘れていてほしいな。僕のことなんだけど。僕も話があると言っておきながら、なかなか口を開けなかった。本心を話すの、苦手なんだよ。 「冷生」  重恋くん。怖い。僕の言いたくないことも言ってしまいそうで。僕のセーフティが外れそうなんだ。まだ何もまとめてないのに、でも僕の口が動いてしまう。 「重恋くんと初めて会ったときのこと、僕まだ覚えてる」  昔話がしたいんじゃないんだよ。 「今思えばあの時から僕は重恋くんのこと、」  言えるワケないでしょ、何言ってるの。言ってどうなるの。後付けみたい。第一重恋くん覚えてないでしょ。僕だって覚えていてほしくない…よ?ほらね、重恋くんは困ったカオしてる。そうだよ、本題入らなきゃ。 「冷生…急に、何?」  照れたみたいに視線を泳がせて、もう少し困らせたいのにな、なんて思いながら僕はまた笑顔を貼り付ける。 「前の生活に戻りたい」  前の生活ってだから何だよ。もっと具体的に言えないのか。どうして躊躇う、自分の口だろ。 「冷生、おれは」  好きだよ、重恋くん。好きなんだ。だからこそワガママな僕を許してほしい。 「先輩と別れろとは言わないよ。でも先輩と付き合ってる理由、僕もよく分からないけど…」  大きな目が見開かれて白目に大きく光が入る。すごく綺麗だと思った。こうなるだろうな、とは思った。ひとつのケジメ、僕のことしか考えてない勝手なケジメ。ごめんね。 「冷生、いやだ…!なんで…」  遠回しな言い方でも頭の良い君は分かったんだね。 「重恋くんに恋愛感情を抱いたままだからだよ。そんなんで友達なんて、できないんだ。傍に居て、重恋くんのこともっと好きになっちゃうから。友達が持つには、もっと違う感情を」  淡々と語る。僕はどういう風に映ってる?卑怯な男?勝手に近付いて、友人面して、自分のモノにならなかったから勝手に離れる、酷い男? 「ご、め…おれ、そこまで考えてなくて、でもおれ、冷生と…」  君が謝ることじゃない。むしろ怒ったっていい。 「そろそろ勉強にも集中しなきゃいけない時期だから、余計なコトに神経使えないんだ」  泣かないで。僕が弱いだけなんだから。 「だから君にきちんと言っておくね。僕がね、染サンに言ったんだよ、なんで鷲宮先輩から君のコト奪わないのか」  君は僕を怒るべきだ。君が怒ったって、僕は何も言えないんだから。重恋くんは首を振る。涙を溢して俯いた。手を伸ばして目元を拭うことも僕には許されない。 「だからね、僕は染サンが気に入らなくて殴ったの」  あ~あ、ジャリガキ卒業してもクソガキじゃん、僕。

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