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Side K

Side K  小松~ってもう自宅みたいに入ってくる観月。窓際に置いていたサボテンに霧吹きで水を上げてる時だった。 「調子はどうよ。やっぱ暇か」  それを俺はこいつに訊き返したいんだよな。それとも見てみぬフリしていいのかな。窶れたね。唇も少し血色悪いし荒れてる。まぁ唇なんて荒れやすいもんだし。 「相変わらず。筋肉落ちてデブったかも」  訊かない方がいいかもな。多分素直には言わないでしょ。 「そうか?そう言われればデブった?」  嘘こけ。悪戯っ子みたいにニヤニヤしてポテトチップが大量に入ったビニール袋を土産、とかいってカーテンレールに引っ掛ける。 「デブった幼馴染にカロリー高い物寄越すなよ」  ありがと、と言えば、真顔に戻る観月にこういうのは下手なんだよなって少しかわいく思う。 「冗談抜きで、痩せたな」 「だから筋肉落ちたって言ったでしょ」  ガチのトーンで言うもんだからそう返せば「ああガチなやつ?」ってヘラって笑う。 「そ、ガチのやつ」  ヘラって笑った観月の顔がまた一瞬で強張って、何か言いたいことあるんだなってのが長年の勘みたいなので分かる。 「小松」  あと何回、小松って呼ぶの観月。染って呼ばれるのも鳥肌立ちそうだけど。築城姓になっても変わらず小松って呼ぶつもり?いや呼ばせないよ、もう。俺のコトなんて。 「何」 「迷ってる」  何を、っていつもみたいに促す気ないよ。 「好きなやつ、放ってまでオレと付き合って。冷生チャンに大変ですねって言われてずっと頭から離れない。呪いみたいだ」 「えっと、迷ってるってのはそれのどこの部分?」  興味ないよ。どうするかなんて。もう俺の範囲外。 「オレから別れを切り出した方がいいのかなって。ごめんな。お前も色々大変な時に」  そんなこと気にすることできたんだね、観月。 「観月が思ってるほど大変じゃないけど…、観月が気遣うことじゃないんじゃない。それとも彼から切り出されるのがイヤ?とか?」 「もうほぼ別れる前提みたいな付き合い方だし、それはねぇけど」  そんな気が回る男だったか。つまらなくなったね、牙抜けた? 「冷生チャンに、距離置こうって言われたらしくて、アイツ泣いててさ。なんつーか、付き合う理由それならなくなっちまってるなって。それからオレも…」 「付き合う理由って何?観月はどういうのあるの?今まであった?現在進行形で付き合ってるからって十分な理由にならないの」  面倒臭いことの繰り返し。不安定で、胡乱なことを重ねて重ねて、果たして何を期待してるの。でもそんなこと気にしない果敢な観月はどこ行ったのさ。それは成長なの、退化なの。 「小松、何か怒ってる?」  成長かな、これが。長く一緒に居過ぎたとか?俺の偶像崇拝かな。怒ってないよ。笑って返す。どうしてそう思ったの。 「でも冷生ちゃんも随分、薄情だなぁ」  意外にも観月は同意しなかった。はっきりしない返事で苦虫を噛み潰したっていう本でよく見る表現、あれっぽい顔してた。 「分からなくもねぇよ、手に入れたつもりで手に入ってねぇの」  おめでとう。でも同時に苦悩するんだ。大変ですねって言われたんだ、冷生ちゃんは鋭いなぁ。  でも、許せないよ。

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