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Side T

Side T  笑うのってこんなしんどかったっけ。ありがとう築城くんってお礼言われて。解法理解してもらえたみたいで隣の子は嬉しそうだった。数学、物理、生物、誰かが答えを定めて、僕らはそれを辿っていく。新しい何かを発見できるのは一握り。ひとつの基準を満たすための指標にされて、本当に役に立つことって何かある?いや、これが今役に立つようにする準備段階なんだよな。可能性を断定に持って行けるのって結局人生に於いてはひとつかふたつくらいなんだから。そう考えると全て空しい。ゼロじゃない可能性に縋ってるだけみたいに見える。隣の子に解法教えたことも笑顔向けられたことも繕うことも、空しい。全部全部。0か1かなんだな。100がないんだ。2でもいいから何か、僕を満たしてよ。英単語も使い捨てみたい。必死に頭に叩き込んだ英会話のパターンも結局は記憶の彼方で消えていくだけ。こういうムダが赦される期間なんだろ?それもあと1年半くらいだけど。大学進学したら何するんだろ。4年間、多分遊ばないでしょ。上の兄姉(きょうだい)の苦労に比べれば僕なんて毎日遊んでるようなもんか。先輩殴って軽い注意で済むんだから。生徒指導のヒステリーは納得してなかったみたいだけど。ヒステリーって呼び名、付けた人すごいわ。言ってることは正論なんだよな、でも。  僕ってこんな後ろ向きな性格してたっけ。別に何の疑問も抱いてなかったはずなんだけどな。不本意な表情貼り付けることとか。勉強ずっと続けてることとか。そのままやり通せばなるようになるし。そこに抵抗とか別に何もなかったはずなんだけど。じゃあなんでいきなり虚しくなった?どうして全てが無に帰結するなんて思っちゃうの。そっか、あれか、ひとつムダなこと、知っちゃったからかな。…ムダ?本当に?2文字で蓋して切り捨てられる?僕は多分すごく断捨離とか、得意なタイプよ。だから正直妙な思い出も変な感情とかもとっとと捨てちゃっていいんじゃない?って思ってる。そもそもあの時、あのピアスの煌めきに導かれるみたいに声掛けちゃったの、間違いだったのかな。  授業中にケータイ鳴って、なんか毒されてるのみたいだ、前の僕なら絶対しなかった。先生が背を向けてる間に内容を確認。メッセージが1件。姉貴から。珍しいこともあるものだと思う半分、もしかして実家で緊急事態でもあったのかな、なんて思いながら少し慌ててメッセージを開く。  “婚約しました”と絵文字付き。いつかこうなるとは思ってたこと。姉貴は結婚願望強かったし。でも僕には関係ない。姉夫婦と関わる気、僕にはないし。おめでとうございます、と送ってそれから電源を切る。兄夫婦とは挨拶を交わした程度でほぼ会わないし関わらない。でも姉貴とは歳がそこそこ近いからどうなるんだろう。それに姉貴は僕に干渉してくるから。面倒臭いだろうな、義兄との折り合いとか。  築城ぼ~っとするな、これ解いてみろ。先生が僕を呼ぶ。はいって返事して席を立つ。簡単な問。渡されたチョークが黒板を鳴らす。簡単な問。黒板を鳴らす手は止まらない。簡単な問い。止まらない手が止められた。そっちはまだいい。先生が僕を少し訝しんだ。できました、僕はいつもの得意な笑顔を貼り付ける。何を考えていたんだろう。あれもこれも簡単な問題だっただろ。

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