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Side A
Side A
別れようか、鷲宮先輩はそう言った。鷲宮先輩の部屋に入ってすぐにおれは鷲宮先輩のスラックスのファスナーに掛けた手を止められた。おれに飽きた?それとも他に好きな人がデキて、何人もいるカノジョさんのことも切ってて、その人のことだけ考えてたい、とか?
「好きなやつ、いるんだったよな」
鷲宮先輩の声も顔も優しい。どうして。やっぱり、もう飽きたのかな。ていよく宥められてる?
「お前、だって、オレとまだ付き合う理由、あんの?」
ない。でも小松先輩に祝福するって言われた。冷生とは距離置くことになって、だから小松先輩と冷生が喧嘩する理由みたいなの、もう多分ない。
「そもそも変な話だろ?どうしてオレと付き合ってる?」
「2人に…仲良くしてほしいから…」
「冷生チャンは分かる。お前のこと大好きだもんな。でも小松は?小松の方になんかあんの?」
「冷生が小松先輩を殴らない理由になれば、それでいいんです」
鷲宮先輩は頭を乱暴に掻いた。おれも自分で何を言い出しているのか分からなかった。鷲宮先輩のこと、捨て駒みたいに言ってるようなもんじゃん。
「お前に言うつもりなかったけど、言っておいた方がいいのかもな。小松、今学校来てないんだわ」
風邪をこじらせてるって聞いてる。おれは頷いた。教えてくれたの鷲宮先輩じゃなかったっけ。本当は風邪じゃなくて、もっと重病だった…とか?
「自宅謹慎なんだわ」
鷲宮先輩はどこか、でもどこという所でもないところを見つめてる。自宅謹慎。
「なんで、ですか」
あのことで?でもそれなら殴った冷生が謹慎になるんじゃないの?
「…殴ったんだよ、冷生チャンを」
小松先輩が?冷生を?殴る?鷲宮先輩は何を言ってるの?
「オレにも何があったのか知らねぇし、何の話かも分からねぇ。お前の話じゃねぇかも知れねぇけどお前の話なんじゃねぇかってオレは思ってる」
ばつの悪そうな鷲宮先輩はおれを一度だけ見た。
「オレとムリして付き合ってもこうなんだよ。お前がムリすることじゃないだろ。もともと2人の問題だったんだよ、最初 から」
「で、も」
鷲宮先輩に両肩を掴まれた。
「好きなやつのとこ、いけよ」
ダメです、だって。
「おれは」
「オレがムリなんだよ。お前といるの、キツいわ」
「せ、んぱ、」
それなら尚更、おれ、鷲宮先輩といた方がいいんじゃないの。小松先輩にコクハクなんてできるわけない。祝福するよ、あの人はそう言ったんだから。それにおれ、冷生のこと、。
「観月先輩、いや、です」
鷲宮先輩に抱き付いて、押し倒して、おれ何やってるんだろ、って思わなくもないけどこうするしかもう浮かばなくて。
「い、やです、観月先輩、」
あの人の声がずっと纏わりついてる。冷生の後ろ姿がずっと頭から離れない。
「おい!」
先輩のを舐めて、抵抗されてたのもいつの間にかやめたみたいでおれは少しずつ慣れてるのを実感した。先輩がおれを赤い顔で見つめて、おれ本当に何してるのここでやめた方が良くない?って思ってるのにそのまま、この前みたいに上に乗っかって、そうすれば鷲宮先輩もおれの腰掴んで下から突き上げる。乱暴にしてほしい。でもこの人は優しくする。爪立てていいのに、乱暴に壊してくれていいのに。じゃないとおれ、錯覚するから。この人は鷲宮先輩なのに。おれの前触ってくれるのは、おれが後ろの調節できないからだよね?おれのを最後に出させてくれるのは気まぐれなんだよね?この人は鷲宮先輩だから。やめろ考えるな思い出すなって理性がいってるのに頭がいうこと聞かないまま、現実と妄想が一致しない。
「重恋、重恋ッ」
おれを呼ぶ声、見つめる顔、これが現実。
「えれッん!」
体勢が入れ替わっておれが仰向けになって鷲宮先輩がおれに覆いかぶさって、「別れよう」って言って、おれは首振って、でも鷲宮先輩は「別れよう」って言い聞かせるみたいに囁いて、すごく優しくて怖かった。
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