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Side K
Side K
結局別れたんだ?観月は頷いた。いつも通りの軽そうな表情。顔怖いから真顔やめた方がモテるって前に言ってからは何かしら表情を出すようにしてるみたいで、ヘラヘラ顔がデフォ。俺とキャラ被るなぁ。でもこいつのへらへら顔はちょっとスケベっぽいから込められてる無邪気さが違うワケ。まぁ表情出せよってそういうことじゃないんだよな。分かりやすいツラしてくれたほうが楽って話だったんだけど意外と強情だから。俺ばっか情けなくてカッコ悪いところ出して観月は俺に出さねぇんだもんな。まぁ甘えてたのはむしろ俺ってことかね。
「後悔してんの?」
「分かんね。アイツのため、みたいに言っちまったけど100%オレのためだわ、くそかっこ悪ぃ。めんどくせぇ女みてぇ」
そうかな。俺はそう思わないけどね。言わないけどさ。
「でも多分これでそのうち好きなやつにコクると思うんだわ、結果までは分からんけど、なんか両想いっぽいから、なんとなく」
観月は力抜くみたいに溜息をつく。ビーチボールだったら萎んでる。
「好きなやつにコクるのは、朝比奈だけ?」
「は?」
鈍感なのか、認めたくないのか。どっちでもいいけどさ。でもやっぱ許せないなぁ~。
「分かんないならいい」
はぁ?って観月は訝しんでるね。観月はそれでいいよ、今は。
「冷生チャンがコクるって、こと?」
冷生チャンが。
「う~ん、まぁそれもアリ」
そういう答えもあるっちゃあるよね。観月はふ~んってポテチを摘まむ。観月が持って来たやつ。減らないんだよね。観月はコンソメ味が好きだから全部コンソメ味で統一されてた。俺はうす塩が好きなんだけどな。知ってるのか忘れてるのか興味ないのか、観月は俺の好みに合わせないから、そういうところだ楽なんだけどさ。
「観月」
呼べば観月はポテチから俺を見る。変わらない関係。長く居過ぎたな。
「これ全部食っていい?」
俺の話なんてやっぱり興味ないみたいで、ポテチの残りを振って、中身が少ないことを知らせる。自宅謹慎の土産には贅沢だよ、特に俺には。いいよって返したら観月はポテチの袋に口近付けて傾ける直前で一瞬だけ止まって、その時少しだけ顔が歪んだ。
「ちゃんと食えよ」
言おうかどうか迷ってたでしょ。俺そんなダメげに見えてる?
「食ってるでしょ」
「すげぇ痩せてんだもん。女子の好きなダイエットってやつ?っつーかそんなショックだった?」
「ショック?」
何のこと。
「冷生チャン殴ったこととか殴られたこととかモロモロ」
ポテチの袋が潰れていく。
「そうかも。でも痩せたのは部活サボってるから」
サボってるっつうか自宅謹慎なんだろ、って聞きながら、ポテチの袋が丸められてゴミ箱に放り投げられるのを俺は見つめた。
「観月さ、」
ふと呼んでしまう。呼んでしまうってなんだよ。
「何?ポテチもうねぇぞ、新しいの開ける?」
「長く居過ぎたな。もう俺のとこあんま寄るな」
ポテチ食いたかったのか?ってフツーに返されて、そういう話じゃなくて。マイペースなやつだな。
「機嫌悪ぃの?」
ポテチ食われたくらいでそんなこと言うかよ。それにこれ買ってきたのお前じゃん。まだいっぱいあるし。
「悪くねぇって。怒ってねぇし、ポテチは関係ない」
いつも通りのヘラヘラした笑い。いつもの声音。いつもの口調。
「まぁいいや、分かった。学校で会おうな」
肩をぽんって叩かれて、俺が落ち込んでる時するやつだから、俺もしかして落ち込んでんのかなって思いつつ、落ち込んでるように思われたのかなって自分でも分からなかった。
「あぁ、気を付けて、帰れよ」
見送ったのは母さん。その会話を俺は聞く。階段の上から。
お邪魔したっす、おばさん。俺が見送ればいいんだけどさ。
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