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Side W

Side W  あっけねぇ。みんな変だ。アイツもおかしくなって、小松まで。アイツからそういうこと仕掛けてくる日がまさか、出会った時は想像もしなかったわ。オレだけ残されて何してんだろ。それにオレに過保護な小松が自分からオレを突き放すなんて。なんだっけ、虎の親子だっけ、そういうの。 「冷生チャン」  たまたま目の前を通り過ぎたっていっても随分遠目だけど知り合いだったから、細い兄ちゃんを呼び止める。すぐにオレには気付いたけどオレとは気付かなかったみたいでいつもよくやってるイイコちゃんぶった返事とツラ。蒼白い顔は相変わらず。っつーか笑えてねぇよ。 「…鷲宮先輩でしたか」  引き攣ったほっぺ直せ。棒読みやめろ。 「どうかされましたか」  イケメンだから人形みたい。 「話、あるんだけど」 「…手短にお願いします」  反抗的な目はどこいっちゃったのかな。みんな変だ。 「授業始まると、厄介なんで」  お前どうしたのさ。サボって便所に突撃してきたのはなんだったの。つまんね。出席日数足りてないとか?まさか、こいつが? 「朝比奈と別れたんだけど」  冷生チャン、どうする? 「そうですか。興味ないです」  冷生チャンはその話かってカンジで黒目がオレから進行方向へスライドしていった。興味ないです、って冷生チャン、距離置くってそういうカンジのなんだ。アイツに飽きてる?フられたから?フられたっつーか、選ばれなかったから? 「興味ないってなんだよ」  アイツはお前のこと心配してんのに。オレや自分の身体利用してまで、お前が小松殴らないようにって、お前のこと、大事にしてんのに。お前は興味なくて、距離置いて、アイツ悲しませて、満足かよ。 「お2人の問題ですよね。僕には口を出す筋合いとかありません」  2人の問題。確かに。オレがアイツに言ったこと。いつの間にこいつの肩を掴んでたみたいで、その手を払われた。空っぽだなってなんとなく思った。頭良くて顔良くて多分それなりのこともどうにかできちゃう性格もあるけど、オレが冷生チャンに感じた何かがもうない。 「でも、オレは、お前には」 「別にお2人が破局したからといって、僕は言い寄ったりしませんから」  冷生チャンは腕時計を確認した。多分ブランド品。有名なトコの。オレそういうの詳しくないけど。 「もう、いいですか」  2人の問題。オレが都合よく使った言葉だろうが。 「冷生チャン」  呼べばリチギなんだよな、止まって目を見てはくれっけど。 「僕が染サンを殴ったから重恋くんは先輩と付き合ったんですよね?じゃあどうして僕が染サンを殴ったかって話です」 「小松に何か言われたとか?バカにされたとか、冷やかされたとか?」 「半分はその通りです」  冷生チャン、急に喋りはじめたと思ったら何が言いたいの? 「まぁ、もう僕が重恋くんから離れたので、どうでもいいことですけど」 「離れたねぇ、気持ちがか?」  冷生チャンはニコってした。愛想笑いってやつだわな。もう関わってくるなってか。 「そうだったら僕も助かるんですけどね」  光が綺麗に冷生チャンに当たって、マジでこいつイケメンだな~って雑誌の撮影か何かかと思った。のんきか。 「じゃあ…」 「不完全燃焼なんですよ。告白はしたんです。でも返事の前に好きな人知ってしまって、それで付き合ったのは鷲宮先輩。あれ?って感じです。僕も勝手なやつですね」 「好きなやつ、お前は知ってるのか」 「僕と先輩ではないのは確かです。それに…、先輩もどなたかはお訊きにならなかった。誰でも構わないんですよね?重恋くんが誰を好こうと、関係、ないんですもんね」  教える気ねぇってことで合ってる? 「…そうだったかも、知れねぇわ」 「本人に訊いてみたらいかがです」  そう、だなって呟くみたいに返したオレをなんか言いたそうに見たから、何?って感じ。 「僕はどうにか諦められるよう努めますから。もうそのことについては…」  冷生チャンはまた腕時計を確認してから行ってしまった。諦められるように努めますから、ね。もう一回コクればいいじゃん、なんでだよ。遠慮してんのか?

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