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Side W

Side W  多目的室のベランダが好きだ。遠くのパチンコ屋の派手な看板が見える。6月中旬の割りに雨の日が少ない。この前夕立があったくらい。雲が形をぐにゃんぐにゃん変えて、いつもよりスピードが速いからオレのリズムも狂ってる。  小松はあれから退学になった。謹慎中の暴力事件だし。モクヒを続けたオレは誰が何を言ったのかも分からないけど、反省文10枚くらいで済んだ。生徒手帳の校則書き写すやつ。あれ意味あんのかね。何か無駄で意味もないことやるのが罰ゲームなのか。なんでだろうな、意味分からん。小松はもう同じ制服着て、ここでバカできないってことか。あと少しで卒業だったのにな。優しかった小松の母ちゃんのこと考えると、いきなり叫びたくなるわ。そしたらまた問題扱いされてまた呼び出し喰らうのかね。基本オレに興味ないオヤジにも殴られたけど、多分過去一、痛かったわ。 「最悪だな」   もしオレが小松に殴り掛からなければ。いや、もう頭ン中真っ白だったし多分それはムリだった。後悔がどうとかいうよりそうならざるを得なかった。なんで黙ってたんだよ。なんでアイツを迎えてやらなかったんだよ。冷生チャンは知ってたのかよ。オレだけ知らなかったのか。それなら冷生チャンの暴力事件は納得いくわな。オレだけ何も知らないで、小松にあれこれ話しちまって、アホか。なんでバカなんだろ、オレ。 「最悪だわ」  長く居過ぎた、距離置こう。お前もともとこのつもりだったのかよ。だとしたらオレまじで最悪。くそだわ。 「鷲宮先輩」  ここはオレの秘密基地みたいなもんなんだけどな。何のケイカイもなく冷生チャンが呼ぶ。3日?…2日?ぶりか。 「ンだよ」  あれからアイツとも会ってない。会わせる顔がない。 「いや…何ていうか、元気かなって」  お前がオレの心配するかよ。気色悪ぃな。冷生チャンは冷たい目でオレを見る。心にもねぇこと言うなよ。 「お前もただのイイコちゃんかと思ったらやることやるのな」  少女漫画の王子様みたいなツラして人殴んなよ。 「どーも」  ほめてねぇし。用はまじでないのか、振り向いてないから分からないけど多分オレと同じように空見てるんじゃねぇかな。なんとなく、気配でそう思った。 「オレ、反省文10枚だったんだけどよ、」 「僕は謹慎2日でしたけどね」  興味なさそうだった。 「アイツは」 「彼、ほぼほぼ被害者ですよ。処分されるわけないでしょ。まぁ、あっても注意とかその辺じゃないですか」 「そう、か。そうだな」 「まぁ多分ですけど。休んでるみたいなんで。僕も2日は来てませんでしたし」  何か読み上げるみたいな話し方。小松に止められたけど冷生チャンのことも殴りそうになったし、やっぱ怒ってんのかな。 「聞きました?」  とーとつだな。多分小松の話だろ。 「クラスのやつから、なんとなく」 「そうですか」  会話終わった。冷生チャンてもしかしてコミュ障? 「なぁ」 「なんですか」  興味ないです、ってこれも言われんのかな。 「オレ、好きだ。アイツのこと」 「びっくりした。僕のことかと思った。どっちです?」  面白い冗談だな。棒読み過ぎて、ぜってぇ嘘だろ。んで、どっちって何。他に誰かいたかよ。 「朝比奈」 「そうですか」  軽い溜息が聞こえた。興味ないってか、やっぱ。 「どの口が言ってるんだって、カンジだけどよ」 「…別に」  そうですね、とは言わないのか。オレだってまさかな、って感じだよ。気付くの遅すぎたわな。 「お前が言った、大変ですねってコトバが呪いみたいに頭から離れなかった」  アイツに触れる度に。アイツと話す度に。アイツが笑う度に。 「大変ですよ、ホント。好きな人と一緒にいるの」  何なん、こいつ。 「それは重恋くんも一緒だったんですよね。あの人とそこそこ一緒にはいたみたいだから」  もともとは小松から紹介された。でもオレが小松との時間を邪魔した。小松は何も言わなかったし、オレもアイツのこと話しまくった。 「恋愛なんてエゴの押し付け合いと折り合いみたいなもんですから。まぁそういうのもアリなんじゃないですか」  こいつオレの心の中、読めんの?冷生チャンを睨んだら、予想外にマジなツラしてて、目を逸らしてしまった。 「冷生チャンはもういいのかよ」 「何がですか。この与太話がですか」  こいつ小松に似てきたな。もともと嫌味っぽいから根本は一緒か。 「朝比奈のコト」  完全に冷めたのか?冷められるのか?それとも他に好きなやつデキたとか? 「もういいわけ、ないです。でもどうしようもないことってあるんですよ。努力とか才能とかじゃないですから、これ。タイミングとかフィーリングとか、自分じゃどうしようもないことってありますからね。まるで宗教勧誘みたいですけど」 「じゃあ、どうするんだよ」  家柄よし、顔よし、性格も…オレと小松以外にはまぁ良しのこいつがそれ言うか。すご。 「背負うしかないんじゃないですか?僕には色恋沙汰以外にもやることありますからね。その辺は折り合いつけないと。進むか諦めるか。別に諦めたって軽いとか思いませんし」  冷生チャンを振り向く。窓に頬杖をついて、振り向いたオレを見た。 「彼の意思関係ないままのほうがよかったですか」  挑発みたいな言葉だったけど、冷生チャンにそんな様子はなくて、興味無さそうだった。仮に挑発でもオレもノるつもりねぇわ。 「それがイヤになったんだよ、空しくなった」 「そうですか。そうですね。そうかもしれません」  テキトーな返事だな。 「お前が小松を殴った理由はなんとなく分かったんだけどよ、なんで小松、お前のコト殴ったの」  それだけが結局オレは分からないまま。 「…さぁ?あの人よく分からない人ですし」  冷生チャンは教室に帰っちゃった。

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