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Side A

Side A  父さんも母さんも無理に学校行く必要ないって言ってくれた。妹には何の事情も説明してないけど、何かあったらしいことは分かったみたいで気にはしてたみたいだけど何も訊かれはしなかった。父さんと母さんにきちんと話はしたつもりだけど、やっぱり全部は言えなくて、誤解は残ったままかもしれない。小学校辺りまでは特になかったけど、中学辺りからは学校のこと、気にしてたみたい。いじめられてるんじゃないかって。おれがそもそもあまり騒がしいタイプじゃないし、本とか生き物とかが好きだったから、そんな気にしてもらうことじゃなかったんだけど。でも登校してみて、昨日の今日っていうのでいきなり怖くなって、ギャラリーの目とか思い出して、教室の前まで行ったけど保健室に向かってしまった。細かい説明もなしに保健の先生はすぐに訳が分かったみたいで大変だったねって言っておれに数学と英語のプリントを渡した。あと3日くらいは様子みようって言ってくれて、少しずつ気持ちは軽くはなるけれど、飼育小屋には行けなかった。理由は2つ。でもある意味ひとつ。いたらどうしようっていうことと、もう来なかったらどうしようってこと。相反する2つの理由。どんな顔して会えばいいのか分からない。どのツラ下げればいいのか。もしくはもうおれの姿も見たくないって、拒絶されたら。鷲宮先輩や冷生と比べたら(はた)かれただけで怪我とか大したことないけれど、小松先輩の掌だったのだと思うと痛い。でもきっとそれ以上におれは3人を傷付けたんだろうな。臆病だった。小松先輩が退学してることも知らずにおれは呑気だった。小松は退学したからもう何も心配することはないって学年主任が言った。おれが呆然としたのを、安堵と受け取ったみたい。  2日3日経ってそれでやっと気持ちの整理がついておれは飼育小屋に行く。いたのは冷生だった。冷生は大丈夫かな。結構強めに殴られてたから。でも、本当、かっこいいな。どうして冷生みたいな人がおれなんかを…  冷生は軍鶏小屋の方を覗き込んで飼育小屋から出てこようとした。 「冷生?」  声を掛けたらおはようって言われて、その言葉で脳裏にあの人が浮かんで、でも今目の前にいるのは冷生。ダメだ、ダメだってあの人をおれの意識から追い出す。  冷生とは近況を話し合うけど、やっぱり話題はあのことになってしまう。冷生は泣いていいっていうけど、いいのかな。冷生はかっこいいから流されちゃいそうになる。距離置く、友達にはなれないって言われて、でも仕方ないのかなって思ったのに。友達になるって言ってくれてすごく嬉しくて。小学校の時から違う世界の人だと思ってたから。初めて会ったとき何かしたみたいで怒らせちゃって、冷生も覚えてたみたいだけど。もうあの頃から冷生はすごい人だった。何をしても1番で。おれのことも庇ってくれて。気遣ってくれて。でもおれは何も返せないんだ。

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