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Side W
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なるほどね。生徒会みたいにシャモ小屋の世話もお前が引き継ぐのね。冷生チャンと朝比奈の姿を隠れながら見つめる。結構いいところね、ここ。日当たりいいけど少し殺風景で見通し悪そうなカンジ。冷生チャンどうするの。もしかしてオレに遠慮したとかか。だぁれもいない。オレの隣。長年の幼馴染も付き合わせてた後輩も、7人のカノジョも。何だったんだろうな。何でもなかったのかもな。これがフツーの男子高生の日常で、あの生活がちょっと…なんつーか、少し、イジョーだったのかもな。
冷生チャンと朝比奈が何か話してる。朝比奈はフェンスに寄りかかって膝にウサギ乗せてしゃがんでる。あの時オレの頭から離れなかった光景はもう見られないのかもな。でも言わなきゃな。言わなきゃならない。どうなるか、分かっていても。
冷生チャンがオレに気付いたみたいで一瞬目が合った気がした。朝比奈の肩を軽く叩いて、飼育小屋から出てきた。すれ違ったけど、特に会話は交わさないまま。振り返って小さい冷生チャンが小さくなっていくのを何となく見つめていた。
「鷲宮先輩?」
用があった張本人がわざわざオレを呼んだ。冷生チャンをガン見してたオレをちょっと怪しそうに見てた。
「よ、よぉ」
オレ、コイツとどういう風に接してたっけ?オレ、コイツにどういうこと、させてたんだっけ。オレの所有物っていう証のない右耳。何してたんだかな。サイテーだろ、フツーに。
「どうかしたんですか?」
おびえてる。当たり前か。オレ、コイツのこと物みたいに扱って、付き合ってることにカコつけて都合よく使ってさ。それでも放したくないと思ったくせに、もっと違うものが欲しいと思って突き放したんだから。
「好きだ」
言わなきゃオレじゃない。冷生チャンが言ったことだけど、甘えるわ、オレ。押し付けて折り合うわ。
「え?」
戸惑うよな。困るよな。でも好きなんだ。
「お前のコトが、好きなんだ」
信じられないよな、頭おかしいよな。
朝比奈は頭を振った。否定するみたいに。オレの言葉を拒否するみたいに。
「冗談ですよね?やめてください、おれ、そういうの上手い返しできないです」
笑いてぇの?泣きてぇの?変なカオ。抱き締めていい?キスしていい?触れていい?
「ごめんなさい。そういう冗談、今は」
オレの脇を通りすぎていく。走って。かぎなれたニオイがした。何度も何度もかいで、もうオレにきっとシミついてて、もうオレの一部になっちゃってる。
なぁ朝比奈、気付くの、すっげぇ遅れたけどさ、本当にオレ、お前のこと。
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