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Side T

Side T 「結婚するって言われた」  染サンの家のリビングで待っていたら重恋くんが下りてきた。染サン言ったんだって思った。それと同時に鷲宮先輩はこれ知ってるのかな、とも思って鷲宮先輩を振り向けなかった。 「結婚?」  先に反応したのは鷲宮先輩だった。何の話だよ?お前結婚するの?って的外れな問いを重恋くんに向けた。 「18になったら結婚するんだって」  淡々と重恋くんは言って、僕は全てを話せなかった。鷲宮先輩はまだよく分かっていないみたいだった。 「誰が?」 「染サン、結婚するんです」  これ言っちゃいけないやつだったかもしれないよ、重恋くん。僕は重恋くんが言う前に声をかぶせた。は?え?どういうこと?とか鷲宮先輩はまだ理解しきれていないみたいでおかしなこと言い出してる。 「失恋どころじゃないな」  ぽろって呟いたのは多分独り言。聞いちゃいけなかった。鷲宮先輩がずかずか二階に上がっていってしまって、僕は反射的に追いかけてしまった。 「小松」  鷲宮先輩が染サンの自室の扉を乱暴に開いて、これヤバいやつじゃない?って思った。また殴り合われたら僕、止められないんだけど。染サンはベッドにいて、不健康なまでに痩せた染サンを鷲宮先輩は殴るつもりなのか。 「小松」 「何」  鷲宮先輩はすぐに殴り掛かるわけではないようで染サンの前に立つ。遅れて重恋くんもまた二階に上がってきた。おそるおそるといった感じで部屋覗き込みながら入ってきた。 「おめでとう」  鷲宮先輩が染サンの肩を叩く。なんだよ、それ。 「何が」  水を飲んで染サンは笑う。僕は重恋くんの手を握って部屋を出た。小さく、帰ろうって言ったら、うんって頷いて、どこに向かうでもなく歩き続ける。雨が止んだあとの湿気の香りがまだした。少し蒸してる。 「どうしようか」 「こんな顔じゃ、帰れないや」  ぐずぐずになった目元。振り返ったらそんな重恋くんで僕はずっと見ないフリしてた。僕の前では泣いたっていいんだよって多分何回言っても聞いてはくれないんだろうな。僕に顔見られて恥ずかしいのか、照れ隠しみたいに笑みを浮かべた重恋くんを抱き締めたくて仕方なかった。 「僕の家来る?」  明日、休みだし。 「さすがに悪いよ、いきなりすぎるもん」  遠くはない。行けない距離じゃないし、重恋くんは嫌かな、やっぱ。 「僕の両親、あまり帰ってこなくてさ、実は。姉貴も多分今日は帰って来ないみたいだし」  夫婦仲、悪いのかな、分からないけど。入れ違うみたいに帰ってきて着替えを取りに風呂はいったらまた会社に戻っていく。労働基準法守ってる?社長のくせに。ワーカーホリックなんだと思う。 「…」 「泊まってもいいし。兄さんの古着でよかったら、着替えあるから」  迷ってる?断りたいのかな。誘導尋問っぽかった? 「じゃ、じゃあお邪魔、します…」  ちょっと無理矢理だったかな。

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