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第3話
「そっかぁ?根本的な性格の違いだと思うがな…?」
兄さんは、無駄な話など全然しないから…他の医者やナースたちからは、とっつきにくい存在で、出来れば関わりたくないと思われているのだ。
「でも僕は兄を尊敬していますよ、ただ…僕は僕で思う所があるので、意見はいつも対立してしまいますけどね」
苦笑いの健次…
「はは、まぁそれはそうと、病院の事、考えてくれた?」
青柳先生は、そう話題を変え聞いてくる。
青柳先生は現在、僕を小児科医に転身させ、小児救急病院を一緒にしようと勧誘中なのだ。
「そうですね…」
首を傾げて呟く。
健次は続けて…
「僕も、独立するには青柳先生の力が必要ですからね。ここの産科医でいるのも辛くなってきましたし…」
僕も将来は、楠総合病院から出て…
小さい医院でもはじめたいと思っているから、利点は一致しているのだけど…
「でも、救急をやっていけるほど僕は実力を持ってないですから…」
考えるように答える健次…
「いーや、健次先生ならやれる。研修医の頃から健次先生は判断力があって器用だって、医局長からも褒められてたんだからな、産科なんかにいちゃ宝の持ち腐れだ…」
「はぁ…」
首をかしげる健次。
そこまで推されると逆に不安になる。
青柳先生は健次の肩を軽く叩き…
「こういう命を、殺したくないんだろ」
保育器の中の兄の子をさして言う青柳先生。
「それは…、当たり前です」
少しかっとなってしまう…。
尊い新しい命の誕生を手助けし誕生の喜びを感じることのできる産科…
だから、選んだ筈が…僕は、今までに数えきれないほどの新しい命を殺してきた…
中絶手術も産科医の仕事…頼まれれば断れない、その数は年々増えていっている…
「殺すためにじゃなく…助けるために働く方が健次先生らしいよ。いい返事、期待してるから」
ひらっと手を振って、詰め所の方へ帰っていく青柳先生。
「ですよね…」
独り言のように呟く健次。
本当は、今すぐにでもココ(楠総合病院)を出たいけれど…父や兄、本家の親類が許してくれる筈がない。
まだ若いし、技能も未熟…でもいつかは叶えたい。
「…救急救命」
命を救う最前線の現場…
即座に的確な判断力が必要だし、小児ならば…ミクロの技術が必要だ…
「もっと、勉強が必要…だね。いつかは独立するために…」
懸命に生きはじめたキミに負けないように…小さな命の前で誓う健次。
新生児ICUを抜け…廊下を歩いていると…
「健次~、休憩中か?」
また白衣の男性から声がかかる…
「…亜澄先生、院内では『先生』をつけろ…って前々から言ってなかったかな?」
声だけでも分かる人物だ。
少し不機嫌に返す健次、こちらの亜澄啓吾先生は小学校時代からの同期。
もう腐れ縁に近い…麻酔科の医師だ。
長年付き合って言えることは…亜澄は性格的に阿保だということ。
麻酔医としては信頼できるけど…
「堅いこと言うなって、兄貴さん、みたいになるぜ」
茶化すように答える亜澄。
「なるわけない。で、何か用?」
「あぁ、さっき兄貴さんのオペ終わった所。いつ見ても華麗なメスさばき」
健次の横を歩きながら出来事を話す亜澄。
「兄さんの?」
「そうそう。で、その患者が、隠れアレルギーな患者でさ、麻酔かけるのに時間くっちまって、でも兄貴さんが執刀医で良かった、大幅な遅れなく無事終了。すげーよな、あんなちいさくても腕は確かなんだからな…」
変な感心のしかたな亜澄。
「小さくてもは余計だと思う…」
低身長のことを言われると、人ごとでも気にかかるので呟いてしまう。
「別に健次に対して言ったんじゃないぜ?」
軽く笑う亜澄。
「兄さん、順調なんだね。今日は兄さん執刀のオペ、あと何人予定がある?」
オペ時など、外科医と麻酔医は切っても切れない位置にあるので、亜澄から兄の情報が聞けるのだ。
「確かあと2人の筈。手術時間長いしハードだよなぁ、脳外…あ、そうそう…それで、兄貴さんからの伝言預かってたんだ」
「は?」
「話があるから副院長室に来いってさ、オペに入る前に来いって」
伝えるのにもかなり前置きが必要な亜澄。
「はぁ、もう少し早く伝えて欲しかったな」
いつもの事ながら、呆れつつ呟く健次。
「大丈夫だろ?兄貴さん、オペ…ぶっ続けではしないから」
「まぁ、そうだけど…じゃ、ちょっと行ってみる」
首を傾げながら、亜澄に答えて、兄の所へ向かう健次。
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