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第5話
(僕が駄目なら西崎先生を使う気!?)
「やめて下さい、なぜ?兄さんの長男なんですよ」
いたたまれなくなって言う健次。
「あんな出来損ないは、私の子ではない…」
返ってきた言葉は酷く痛いもので…
「兄さん!」
「いいから行け」
「行きません、兄さんの凶行を止めるまでは!」
「……」
頑固な態度をみせる健次を黙って見る。
健次は、まっすぐ満を見て、頑として言う。
「まだ、あの子の命を絶とうとされるなら、僕は…父であろうと、兄であろうと、訴えます!」
「…何を言っている。そうすれば、お前もこの病院もただでは済まない…」
満は、息をつき言い返す。
「判ってます…」
真剣に答える健次。
「…そこまでして生かす価値はない筈だが…」
まだそう息をついて答える。
「…兄さん」
健次は兄の態度を見て悲しくなるが…
「好きにしたらいい…私は一切責任を持たない。ただ、もし生かすなら、生年月日は改ざんしろ…同学年にした方が都合がいい…」
健次のかたくなな態度に諦めて、ぶっきらぼうに言う満。
「何が…ですか?」
同学年?満の考えている事が読めず、首を傾げる健次。
こちらの都合で、誕生日を改ざんするなんて…
批判的に思うが…
「いずれ判る。もう行っていい」
これ以上なにも言わせないように会話を切る…
その後、
結局…兄の言う通り、子供の生年月日は2ヶ月半ほど遅らせて、四月二日と書き。
名前も、僕が決めた。
(病なんかに負けず、光輝ける生き方のできるように…そう、どんな暗い壁にぶつかっても、闇に負けず、周りを照らせるほど強く育って欲しいと願って…)
『晃』と――
アキラは、保育器のなかで順調に育っていった。
心配された脳の発達障害や、後遺症もなく元気に育つ可愛い小さな甥……
慌ただしい毎日の中、必ず一度は顔を見に来る健次…
栗色の髪の毛に深緑の瞳…
「本当、兄さんにそっくりだ…」
なのに兄は認めようとはしない…
父親に見放され…
そして、アキラの母親も、親権を放棄した。
最も愛情をそそいでくれる筈の存在がアキラには、いない…
だから少しの時間でも、人の温かさを伝えてやりたかった…
誕生から数ヶ月がたち、アキラも保育器から出て…生活が出来るようになる。
元気に手足を動かし、可愛いらしい表情も見られるようになる。
そんなアキラを見ていると、大変な運命を背負っていても、やはりこの子が生きていてよかった…と思えるのだった。
兄は相変わらず、一度も息子を見に来ることはなかった。
アキラが生まれてすぐ、アキラの母親とは別れて、新たな女性と婚姻している。
跡取りを儲けるためだけの契約的結婚…。
僕には…理解できないけれど、兄のやり方なのだ…。
新たに兄の妻になった人…
有名大学卒、女医のユカリさんはすでに妊娠している。
今回も体外受精で…出産予定月は三月。
アキラと同学年の子供だ…。
あの時、兄さんが言っていた事は…この事で、そのためにアキラの誕生日を改ざんさせたのだ。
僕は…今、小児医療の勉強を本格的にはじめた。
四月には楠病院の分院、小児救急センターで働くことになったからだ。
今、古くなった別院を潰し新しく建て直している…
なぜ急に決まったのか…それは、兄の前で言ってしまった一言。
『父であろうと兄であろうと訴える』
この発言が上で問題になり、僕は危険因子として左遷されることになったから…
父が継ぐ楠病院本院では逆らうものは地方か、激戦区に飛ばされる…。
たとえ、実の息子であろうと…
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