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第11話《再会》
健次は再び楠総合病院に戻り、技術的な面でなく病院長として働くべく…違う方面の事柄を学んでいく…
そして…さらに、一年の時が過ぎる。
たった数年の間に、健次を取り巻く環境は大きく変わった。
しかし変わらない存在もある…
「オーイ、健次」
明るく声をかけてくるのは…親友の亜澄だ。
彼はまだ分院の小児救急で働いている。
火事から数カ月経った頃から時々、健次の様子をみに本院までくるようになっていた…
「やぁ、亜澄。元気そうでなにより、今日は?」
健次はすっかり笑顔を取り戻していた。
時も手伝って、生活していくうえでは…失った辛さをほぼ乗り越えられていた。
「今日は学会の帰り。お前も早くこっちに戻ってこいよ、みんな待ってるぜ?」
小児救急の現場へ戻ってきて欲しいと、亜澄は誘ってくる。
「…それは、まだ…自信がないから」
健次は、まだ…息子を救えなかった現場へ、戻る決意がつけられないでいた。
言葉を濁す…
「まぁ、俺たちは強制しないし、戻れるようになったら来いよ。健次の居場所はちゃんとあるからな」
そう微笑む亜澄。
「ありがとう…」
亜澄の言葉に頷く健次…
「おう、あぁ…そういえばさっき一階で兄貴さんのジュニア見掛けたぜ?」
急に話題転換する亜澄。
「えっ…!?」
亜澄のその言葉にハッとする健次…
今までの間、健次は自分の事で精一杯な状態だった為、気にかけることすらできなかった…
自分がとりあげた、兄の二人の子供たち。
アキラとコウジの存在を…
特に…低出生体重で生まれ、愛情不足ぎみだったアキラの事が心配になる。
健次がアキラと最後に会ったのは、アキラが1歳半に満たない頃。
それ以後は、慣れない救急の仕事をこなす為、会いにいくことができなくなっていた…
そしてアキラは、しばらくして病院を退院し、自宅での世話を家政婦にみてもらっていると、その時聞いたので…
アキラに愛情を注いでくれる人がいないわけではないので、取りあえず安心していた。
あれから、どう成長したのだろう。
年齢でいけば4歳を過ぎている筈…
つかまり立ちがやっとだったあの子が、きちんと歩けているのだろうか…
期待や心配でいっぱいになる健次。
「そうか…兄さんの子どもたちに、また会いたいな。二人は元気そうだった?亜澄」
目撃者の亜澄に聞いてしまう。
「ん?下で見たのは、子供ひとりだけだぜ。幼稚園の制服着てたな、近くにいたのは母親のユカリ先生だったぜ?入園式かなにかだろうな」
亜澄は首を傾げながら伝える。
ユカリとは兄の妻で、楠病院の医師でもある。
コウジの母親だ…アキラとは血の繋がりはないが、戸籍上は親子。
「来ているのは一人?」
健次は聞き返してしまう。
「そうそう、なんか紹介してたなぁ、行ってみるか?」
亜澄は軽く呼ぶ。
「…そうだね、行こうか」
健次は頷き、気になる気持ちを抑えて、亜澄と共に一階のフロアーへ降りる。
そこには、ウエーブがかった明るい茶色い髪のユカリ先生に手を引かれている3、4歳くらいの茶色い髪の子供。
ユカリ先生はナースたちと話しをしているようで、子供は大人しく待っている。
「お久しぶりです。ユカリ先生」
そっと話しかけてみる健次。
ユカリ先生は、声に振り返り…
「あぁ、健次先生。お久しぶりですね、その節は有難うございました。ほら、挨拶しなさい…あなたが生まれる時に世話になった先生よ」
ユカリ先生は愛想良く笑いかけ、子供を促す。
「はじめまして、くすのきこうじです」
はきはきとした声で、きちんとおじぎをするコウジ。
「はじめまして、大きくなったね。何歳かな?」
優しくコウジの頭を撫でて聞く健次。
「3さい!」
元気良く答えるコウジ。
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