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第14話
ベッドの中には、TV、DVD、オーディオ機器、本、パソコン、小型冷蔵庫や端の方には、小さな簡易トイレまでついている。
4歳の子供ひとりにこれだけの物を…
しかし、それに温かさはない…
アキラは日々、冷たい機械に囲まれた、狭い空間…
このベッド内で今まで生活を送っていたのだ…
ほとんど、日に当たったことのないような白い肌のアキラを見ていると…いたたまれなくなってくる健次。
どう声をかけようか、迷う健次だが…
「アキラ、失礼しますね…」
意を決して…邪魔な大きなベッド柵をなんとかはずす健次。
その揺れでようやく気付いたアキラ、振り返る。
「こんにちは。お邪魔しています、アキラ」
健次は笑顔で優しく挨拶をするが…
「!!」
アキラは急な訪問者に、ビクッ!と身体を震わせ後ずさる…
「あっ、びっくりさせてしまいましたね。すみません」
健次は警戒させまいと謝るが…
アキラは不審者をみるような目つきで、かなり警戒している。
「あ、その耳にしてるイヤホン取れますか?会話がしたいので…」
ジェスチャーで伝える健次。
かなり大きな音で聞いているようで、おそらくアキラに自分の声は届いていないだろうなと思って。
「……」
依然、なんだコイツ。
みたいな目で見てはいるが、健次のゼスチャーに答えて、イヤホンを外し、リモコンでCDの電源を切るアキラ…
それを見て微笑む健次。
「こんにちは、僕は楠木健次といいます。君とは初対面ではないけれど、覚えて…いるわけはないですね。君はまだ1歳だったから…」
健次はアキラに対して、安心させようと優しく言葉をかける。
アキラは栗色の長めの髪をくしゃっと掴んで…目線を横に投げ呟く…
「家政婦に言われて来たのかな、おれが勝手に出ようとしたから…でも、もう出る気ないし見張ってても意味ないのにな…」
独り言のように…目の前の健次を無視する。
可愛いらしいアキラの声とは裏腹に表情は無い…
「アキラ?」
名前を呼んでみるが…全く無反応。
会話がなりたたない…
「アキラ、あの…」
アキラの視界に入りたくて、静かにベッドの脇に座り、栗色の髪に触れようとする。
「!…触るな」
アキラは自分のテリトリーを侵す不審人物に顔を少し歪め、その手を見て、鋭く拒否する。
「…アキラ」
視界に入ることは出来たが…その目は全く自分を信じてくれていない。
「あぁ、ごめんなさい…でも、僕はアキラに嫌なことをしに来た訳ではありませんから、怖がらなくても大丈夫ですよ」
触れようとした手をひいて、丁寧に謝る健次。
また、視線を下げて言葉を静かに聞いている幼いアキラに続けて…
「僕は、ただアキラと話しがしたかっただけなんです。答えてくれますか?」
優しい口調と表情で聞いてみる。
「……なんの為に?調査?」
沈黙のあとアキラは、ちらっと健次を見て…
ぽそっと聞く…
「まさか、違いますよ、調査なんかしません。僕はアキラと仲良くなりたいから…アキラのことをアキラの口から聞きたいだけです」
ようやくアキラから反応が返ってきて嬉しく思う。
会話を始めるまで…こんなに時間を要するとは…
でも、それは…アキラが人と話しをする事に慣れていないから…
それを切実に感じる。
「…あきら」
ふと、アキラが呟いた。
「えっ?」
よく聞こえなくて聞き返してみる…
「…アキラ…って、おれの名前…?」
ぽつりと呟かれたコトバ…
その内容に衝撃を受ける健次。
この子は…
自分の名前を知らない…?
「…そ、そうですよ。君の名前はアキラ、楠木晃。僕がつけた、君の名前だ…」
動揺しながらも答える健次。
「ふーん」
アキラは、それ以上何も聞いてはこない…
そんな様子のアキラを見ていると、胸がしめつけられるように痛む健次。
4つになる子が、自分の名前すら知らないなんて…
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