14 / 26

第14話

ベッドの中には、TV、DVD、オーディオ機器、本、パソコン、小型冷蔵庫や端の方には、小さな簡易トイレまでついている。 4歳の子供ひとりにこれだけの物を… しかし、それに温かさはない… アキラは日々、冷たい機械に囲まれた、狭い空間… このベッド内で今まで生活を送っていたのだ… ほとんど、日に当たったことのないような白い肌のアキラを見ていると…いたたまれなくなってくる健次。 どう声をかけようか、迷う健次だが… 「アキラ、失礼しますね…」 意を決して…邪魔な大きなベッド柵をなんとかはずす健次。 その揺れでようやく気付いたアキラ、振り返る。 「こんにちは。お邪魔しています、アキラ」 健次は笑顔で優しく挨拶をするが… 「!!」 アキラは急な訪問者に、ビクッ!と身体を震わせ後ずさる… 「あっ、びっくりさせてしまいましたね。すみません」 健次は警戒させまいと謝るが… アキラは不審者をみるような目つきで、かなり警戒している。 「あ、その耳にしてるイヤホン取れますか?会話がしたいので…」 ジェスチャーで伝える健次。 かなり大きな音で聞いているようで、おそらくアキラに自分の声は届いていないだろうなと思って。 「……」 依然、なんだコイツ。 みたいな目で見てはいるが、健次のゼスチャーに答えて、イヤホンを外し、リモコンでCDの電源を切るアキラ… それを見て微笑む健次。 「こんにちは、僕は楠木健次といいます。君とは初対面ではないけれど、覚えて…いるわけはないですね。君はまだ1歳だったから…」 健次はアキラに対して、安心させようと優しく言葉をかける。 アキラは栗色の長めの髪をくしゃっと掴んで…目線を横に投げ呟く… 「家政婦に言われて来たのかな、おれが勝手に出ようとしたから…でも、もう出る気ないし見張ってても意味ないのにな…」 独り言のように…目の前の健次を無視する。 可愛いらしいアキラの声とは裏腹に表情は無い… 「アキラ?」 名前を呼んでみるが…全く無反応。 会話がなりたたない… 「アキラ、あの…」 アキラの視界に入りたくて、静かにベッドの脇に座り、栗色の髪に触れようとする。 「!…触るな」 アキラは自分のテリトリーを侵す不審人物に顔を少し歪め、その手を見て、鋭く拒否する。 「…アキラ」 視界に入ることは出来たが…その目は全く自分を信じてくれていない。 「あぁ、ごめんなさい…でも、僕はアキラに嫌なことをしに来た訳ではありませんから、怖がらなくても大丈夫ですよ」 触れようとした手をひいて、丁寧に謝る健次。 また、視線を下げて言葉を静かに聞いている幼いアキラに続けて… 「僕は、ただアキラと話しがしたかっただけなんです。答えてくれますか?」 優しい口調と表情で聞いてみる。 「……なんの為に?調査?」 沈黙のあとアキラは、ちらっと健次を見て… ぽそっと聞く… 「まさか、違いますよ、調査なんかしません。僕はアキラと仲良くなりたいから…アキラのことをアキラの口から聞きたいだけです」 ようやくアキラから反応が返ってきて嬉しく思う。 会話を始めるまで…こんなに時間を要するとは… でも、それは…アキラが人と話しをする事に慣れていないから… それを切実に感じる。 「…あきら」 ふと、アキラが呟いた。 「えっ?」 よく聞こえなくて聞き返してみる… 「…アキラ…って、おれの名前…?」 ぽつりと呟かれたコトバ… その内容に衝撃を受ける健次。 この子は… 自分の名前を知らない…? 「…そ、そうですよ。君の名前はアキラ、楠木晃。僕がつけた、君の名前だ…」 動揺しながらも答える健次。 「ふーん」 アキラは、それ以上何も聞いてはこない… そんな様子のアキラを見ていると、胸がしめつけられるように痛む健次。 4つになる子が、自分の名前すら知らないなんて…

ともだちにシェアしよう!