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第15話
「誰も…君の名前を呼んでくれなかったのかい?」
健次は、つい聞いてしまう。
「……」
アキラは無言のまま目線を横に投げる。
「あの家政婦さんは?」
「家政婦…嫌い」
わずかな声で伝えるアキラ。
「アキラ…」
「でも、ここにいるかぎり逆らえないの、分かるから…早く自立できるように勉強して、こんなトコ出ていく…」
やはり独り言のように言うアキラだったが…
考えはしっかりしていた。
家政婦に世話されなくてもいいように、何でも出来るようになれば、今の生活を抜け出せると…
この幼い年で、人に頼らず生きていくことを考えているとは…
いや…そう思わずにはいられない環境が、そこにあるから…
「アキラ…外、行きませんか?」
無粋なことを聞いて、アキラの心を沈ませるよりは…と気分転換に散歩に誘う健次。
「え…そと?」
そのコトバに、ぱっと顔を上げて、初めて瞳を輝かせる…
「はい、今日は天気がいいですから、気持ちがいいですよ。行きますか?」
そんなアキラの反応に驚きながらも優しく誘う健次…
アキラはまっすぐ瞳をあわせて頷く…
「外に出掛けるのが好きなんですね」
健次が微笑み言うと…
「ずっと、出たいって思ってた…から」
今度は独りゴトではなくこちらへ答えを投げ返してくれる。
「えぇ…行きましょうね」
アキラの生活全部…
聞く程に切ないけれど…この子に笑顔が戻るなら…
そう、心から思う健次…
「出て来れるかな?」
「うん…」
頷いてゆっくりベッドの端まで這ってくるアキラ…
柵につかまり、立ち上がる。
そして周りにある壁や物を支えにしながら…つたい歩きをするアキラ。
「アキラ、こっちにおいで…」
健次は優しく呼び手をさしのべるが…
「…ううん、いい。自分でいく」
壁をつたい大回りをしながら…部屋の入口まで辿り着くアキラ。
「…アキラ、壁を持たないと歩けない?」
「……まだ、歩けないけど…」
ここまで移動するのに息が切れているアキラ。
体力低下…
そして…歩行障害?
日々、ベッドの上でのみの生活で、つくはずの足の筋力はつかず、未だに歩くことすらままならないのか…この子は…
「…大丈夫?僕が、そうしたらこちら側の手を支えるから、アキラは片手で壁をつたっていって下さいね」
説明して、もう一度、手をさしのべる健次。
「…持って、いいの?」
「えぇ、外へ行くんでしょう」
「……、うん」
やや、うつむいたままアキラは健次の手を握る。
そして、ふと気になるようにポツリとコトバを出す。
「健次さんは…今日の給料貰ってる?」
名前を呼ばれて、嬉しく思うが…
内容は…
「え?給料?」
「貰ってないの…?じゃ今度、いっぱいお礼するから…お金がいい?物がいい?」
「そんな、お礼だなんて、考えなくていいですよ。なぜそんなことを?」
「…他人に世話してもらったら、お金を払うのが当たり前だから。家政婦も給料があるから世話してるって言ってるし…」
普通に話す幼いアキラ。
「…そんな」
アキラが家政婦から学んだことは…そんなことだけ?
「…健次さんも他人だよね?」
コトバには出さないアキラだが…
その目は、父親じゃないよね?と、聞いてきていた。
「…えぇ、でも…身内ですよ。僕はアキラのお父さんの弟なんです」
「……オレ、お父さん、いるの?」
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