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第16話

顔を伏せてポツリと聞くアキラ。 「……えぇ、アキラは兄に良く似てますよ」 健次は優しく、言葉を選びながら伝えていく… 「……何、してる人?」 ぎこちなく聞いてくるアキラ… 一度も会いに来ない人でも… 父親の存在… 母親の存在… 気にならない筈はない… いくら…、しっかりしている子供でも… まだ、こんなに幼いのだから… 健次は心で思い、優しく教える。 「僕と同じ病院の先生ですよ、お医者さん。一番偉い院長先生になる人…だから、とても忙しい人なんです」 兄がアキラに会いに来ない理由はそれだけではないが、今…アキラに本当の理由を伝える事なんか出来ない。 純粋な心を不用意に傷つけたくはない。 でもいつかは、確実に知ってしまうだろう。 父親に…、母親に…見放されているという事実を… その時、自分は絶対この子の傍にいる… そう誓いながら… 「……」 アキラは、健次の表情をちらっと見て、視線を下げ… それ以上、聞くことはなかった… 健次は話題を明るい方へと向けるようアキラに話し掛ける。 「ほら、玄関につきました。広いから歩くのが大変ですね…大丈夫ですかアキラ?」 「うん…早く行く」 息をついて答えるアキラ… 「そうですね」 アキラの歩行を補佐しながら…優しく頷く健次。 アキラは、年齢の割には小柄で足の筋力も弱い… 体力も同年代の子と比べたら、はるかに劣る。 それはアキラが生まれながらにして持つ病気のせいだけではないのだが… このままでは…二年後、小学校に通うのも難しいだろう。 「いい気持ち…でも眩しい…」 外へ足を踏み出してみると、心地よい風が頬を掠める… アキラは眩しそうに…呟く、子供らしい笑顔は、まだつくれないが… 感情が欠落している訳ではない… ただ、感情表現の方法を学べなかっただけで… でも、これからは…僕が、僕達がアキラに教えていけばいいことだから… 「アキラ、今のままだと、アキラは一人で上手に歩くこともできない…」 「……」 健次の言葉を聞いて、やや表情を落とすアキラ。 「だから、アキラ…僕が働いていた病院に来て、歩行練習をして、学校に行けるように…頑張ってみませんか?」 続けて優しく話す健次。 「病院…健次さん、いるの?」 下を向いたままポツリと聞くアキラ… 「今は…別の病院に勤務してますが、僕もアキラと一緒に戻ります。今、決めました」 つらい別れのあった現場だけれど、いつまでも逃げていられない… この子の為にも… 「僕も医師として頑張りますから…アキラも一緒に頑張ってみましょう」 健次の力強いコトバに…アキラは背を押されるように頷く。 「……うん」 健次の支える手をしっかり握りしめ… 「自由に、なりたい…」 そう、思いを伝えてくれるアキラ…。

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