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第17話《母親》
篭の中の鳥は、自由を得る為に…
最初の一歩を踏み出す。
それは…自由と引換に、今まで見えなかった様々な厳しい風に充てられるということでもあった…
そのことを、重く受け止めていなかった健次。
アキラを救う為、楠小児救急医療センターの小児病棟にアキラを入院させる。
体力をつける為、足のリハビリの為に…
健次は、アキラが寂しくないようにと思い、四人部屋の窓側へ受け入れる。
アキラは何も拒否や訴えなく…
健次の与えた通りにおとなしくしていた。
しかし、この判断がアキラをさらに苦しめるものであることに、健次は気づけなかった…
健次も病棟勤務に配属変更されて、アキラに目を配れるようになり、安心していた。
アキラは年こそ離れているが、健次と波長が合うのか…
毎日会うにつれ、次第にアキラの心にある壁が薄れ、自分に懐いてきているように感じて嬉しく思う健次。
自分をいつも笑顔で迎えてくれるアキラ。
健次が関わりはじめて数カ月、無表情になっていたアキラに笑顔が戻ってきた。
はじめのうちは、目と目を合わせて会話をすることも、ままならなかったアキラだったが、今では他の子供と変わらないくらいの変化をみせる。
ただ、一人きりの生活が長かったためか、独り言を言う癖はなかなか直らなかった。
「アキラ、おはようございます。ここの生活には慣れましたか?」
今日も、日課の如くアキラに挨拶をする健次。
「うん」
健次の笑顔につられるように微笑むアキラ。
淡い栗色の髪が一際目立っている…
「同じ部屋のお友達とは仲良くできてますか?」
何気に聞く健次。
「うん、大丈夫…」
アキラは同じ笑顔のまま頷く。
「そうですか…今日は天気がいいですから、外でも歩行訓練にいきましょうね」
健次もいつも通り対応するが…
本当は知っていた…
アキラが、まったくと言っていいほど、同世代の子と打ち解けられていない事を…
こどもは純粋で、そして時に残酷だから…
アキラの薄い髪色、アキラの深い緑色の瞳…、悪気なく好奇心で指摘する。
それだけでなく…
他の子供達は、ほとんど…毎日、母親の面会があったり、付き添いで家族の人が泊まったりしている。
家族の面会などないアキラ…
日々見せ付けられる、家庭の当たり前の姿…
それは、アキラの心に…どれほどストレスをかけてしまうものか…
子供たちが何気に話す親の話さえ…
アキラには尖ったナイフのようなものだから。
日中、アキラは自分の殻にこもりがちになっている。
そうナースたちが教えてくれていた。
アキラが、話しをするのは自分とだけだと…
それは、アキラにとって決して良い事ではない…
しかし…どうしてやれば最良なのか、健次には分からず日々が過ぎていくのだった。
せめて、気分転換にとリハビリの時間、外へ誘うのだ。
「…うん、今日何時から?」
ぽつりと聞くアキラ。
「お昼過ぎからにしましょうか」
優しく教える健次…
「うん、待ってる…」
ベッドに座り、終始同じ笑顔で言葉を返すアキラ…
「はい、では…アキラ」
そんなアキラの頭を軽く撫でて…アキラの元を離れる。
「…うん」
アキラはすぐにテレビのイヤホンを耳に入れ、パソコンに向かう。
まわりの音、視界を、すべて遮断してしまうアキラ。
「……」
その顔は、また無表情に戻ってしまっていた。
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