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第19話

「アキラ。ええとね、君たちの名前が一緒なのは偶然じゃないんですよ」 ふたりに柔らかく伝えようと考えつつ話す健次。 「ぐうぜんってナニ?」 すかさず聞いてくるコウジ。 「あ、えっと…」 幼児に説明をするのは難しいな…と詰まる。 「…偶然の意味は、思いもよらないこと、たまたま起こること…」 健次の様子を見てアキラはポツリと呟く… アキラは一人きりでいる時、絵本よりも辞書を読んだり、文字ゲームなどをしていた幼児だから、大人が使う殆どの言葉を把握している天才児なのだ。 「そうですね、二人は、たまたま同じ名前だった訳ではなくて」 健次はコウジの手をとり、引き気味のアキラと手を繋がせ、上から優しく健次が二人の手を包む。 「……っ」 健次の行動に驚いてしまうアキラ。 「二人はね、兄弟なんですよ。だから仲良くして欲しいんです」 微笑み伝える健次。 「えっ、きょうだい?ほんとうに?ぼく、ずっとおとうとがほしかったんだ!」 コウジは大喜びしてアキラの手を握りしめる。 逆にアキラは無感動で… 「はは、コウジ…残念だけど、アキラの方がお兄ちゃんなんだよ」 健次は柔らかく訂正する。 「えー、でもアキラ、ぼくよりちいさいよ?」 首を傾げて聞くコウジ。 健次はアキラの頭を撫でながら教える… 「アキラはね、コウジより少し身体が弱いんです。だから、入院して強くなるように頑張っているんですよ」 「ふーんそっか、たいへんなんだね…早くよくなるといいな…、そうだ、お母さんがくるまで、アキラといっしょにあそんでていい?先生!」 人懐っこい笑顔でお願いしてくるコウジ。 「…そうですね。アキラ、せっかくですから遊んでおいで」 アキラが少しでも社交的になれるよう、そう思ってすすめる健次だが… 「…やだ」 握られた手を払って…小さく拒否するアキラ。 「アキラ?コウジはアキラの弟なんですよ…仲良くね…」 「……」 健次の言葉にうつむいたまま固まるアキラ。 「どうしたの?」 コウジも不思議そうにアキラを見ている。 そこへ… 「どうもこんにちは、健次先生。さ、コウジ、そろそろ帰りましょう」 優しく声をかけてきた女性。 「あ、はーい、お母さん!」 コウジは母親が現れると、行儀良く答えて傍に行っている。 「お疲れ様です、ユカリ先生。えっと…」 挨拶を交わし、アキラの様子をうかがう健次。 コウジと兄弟で…そのコウジにだけ、母親と呼べる存在がいる。 頭のいいアキラに分からないわけはなかった。 その複雑な疑問の瞳で、ユカリを見つめているアキラ。 「……」 「アキラ…」 堪らなくなり声をかける健次だが… 「お母さん、ぼく、きょうだいとあったよ」 コウジは嬉しそうに伝えている。 「兄弟?」 「はい、あの子、ぼくのおとうと…じゃなくてお兄ちゃんなんだって」 アキラの心境など分からず無邪気に話すコウジ。 「…あぁ、確かアキラさんね。そういえば、ここに入院していたわね」 思い出すように呟いて、少しアキラに近づくユカリ。 「こんにちは、アキラさん」 そして、他人行儀な挨拶をかける。 「……」 アキラは答えたいようだったが、言葉が出ず、俯いてしまう。 「あら…挨拶、できないのかしら…仕方ない子ね。では、行きましょうか、コウジ」 ユカリはそう微笑みながら…アキラとの関わりを終わらせ帰ろうとする。 「ゆ、ユカリ先生…」 あまりにアッサリしたユカリの言葉を聞いて、とっさに呼んでしまう健次。 しかし… 驚いたことに、ユカリを止めたのは健次だけではなかった。 「えっ、何…?」 ぎゅっと…ユカリの服を掴んでいる、小さい手… アキラが… ユカリを止めていた…

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