19 / 26
第19話
「アキラ。ええとね、君たちの名前が一緒なのは偶然じゃないんですよ」
ふたりに柔らかく伝えようと考えつつ話す健次。
「ぐうぜんってナニ?」
すかさず聞いてくるコウジ。
「あ、えっと…」
幼児に説明をするのは難しいな…と詰まる。
「…偶然の意味は、思いもよらないこと、たまたま起こること…」
健次の様子を見てアキラはポツリと呟く…
アキラは一人きりでいる時、絵本よりも辞書を読んだり、文字ゲームなどをしていた幼児だから、大人が使う殆どの言葉を把握している天才児なのだ。
「そうですね、二人は、たまたま同じ名前だった訳ではなくて」
健次はコウジの手をとり、引き気味のアキラと手を繋がせ、上から優しく健次が二人の手を包む。
「……っ」
健次の行動に驚いてしまうアキラ。
「二人はね、兄弟なんですよ。だから仲良くして欲しいんです」
微笑み伝える健次。
「えっ、きょうだい?ほんとうに?ぼく、ずっとおとうとがほしかったんだ!」
コウジは大喜びしてアキラの手を握りしめる。
逆にアキラは無感動で…
「はは、コウジ…残念だけど、アキラの方がお兄ちゃんなんだよ」
健次は柔らかく訂正する。
「えー、でもアキラ、ぼくよりちいさいよ?」
首を傾げて聞くコウジ。
健次はアキラの頭を撫でながら教える…
「アキラはね、コウジより少し身体が弱いんです。だから、入院して強くなるように頑張っているんですよ」
「ふーんそっか、たいへんなんだね…早くよくなるといいな…、そうだ、お母さんがくるまで、アキラといっしょにあそんでていい?先生!」
人懐っこい笑顔でお願いしてくるコウジ。
「…そうですね。アキラ、せっかくですから遊んでおいで」
アキラが少しでも社交的になれるよう、そう思ってすすめる健次だが…
「…やだ」
握られた手を払って…小さく拒否するアキラ。
「アキラ?コウジはアキラの弟なんですよ…仲良くね…」
「……」
健次の言葉にうつむいたまま固まるアキラ。
「どうしたの?」
コウジも不思議そうにアキラを見ている。
そこへ…
「どうもこんにちは、健次先生。さ、コウジ、そろそろ帰りましょう」
優しく声をかけてきた女性。
「あ、はーい、お母さん!」
コウジは母親が現れると、行儀良く答えて傍に行っている。
「お疲れ様です、ユカリ先生。えっと…」
挨拶を交わし、アキラの様子をうかがう健次。
コウジと兄弟で…そのコウジにだけ、母親と呼べる存在がいる。
頭のいいアキラに分からないわけはなかった。
その複雑な疑問の瞳で、ユカリを見つめているアキラ。
「……」
「アキラ…」
堪らなくなり声をかける健次だが…
「お母さん、ぼく、きょうだいとあったよ」
コウジは嬉しそうに伝えている。
「兄弟?」
「はい、あの子、ぼくのおとうと…じゃなくてお兄ちゃんなんだって」
アキラの心境など分からず無邪気に話すコウジ。
「…あぁ、確かアキラさんね。そういえば、ここに入院していたわね」
思い出すように呟いて、少しアキラに近づくユカリ。
「こんにちは、アキラさん」
そして、他人行儀な挨拶をかける。
「……」
アキラは答えたいようだったが、言葉が出ず、俯いてしまう。
「あら…挨拶、できないのかしら…仕方ない子ね。では、行きましょうか、コウジ」
ユカリはそう微笑みながら…アキラとの関わりを終わらせ帰ろうとする。
「ゆ、ユカリ先生…」
あまりにアッサリしたユカリの言葉を聞いて、とっさに呼んでしまう健次。
しかし…
驚いたことに、ユカリを止めたのは健次だけではなかった。
「えっ、何…?」
ぎゅっと…ユカリの服を掴んでいる、小さい手…
アキラが…
ユカリを止めていた…
ともだちにシェアしよう!