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第20話

ユカリも驚いていたが、さらに健次は驚いていた… 今まで見てきたアキラは常に受動的で、自分から動いて何かを求めることなどなかったから… 「アキラ…」 健次が呼んでも…アキラはユカリをまっすぐ見て離さない… そして、ぽつりと一言。 「……お母さん?」 そう、不安そうな瞳で聞いていた。 「…アキラ」 アキラの…言葉。 (……お母さん?) 親の事…何も言わなかったアキラだけど、本当はずっと… ずっと…気にしていて… コウジのように、ハキハキ話せないアキラが、その、一言だけ、本当に知りたかった言葉を投げ掛けたのだ。 「…ごめんなさいね、アキラさん。私と貴方、血の繋がりはないの…コウジとは父親が同じで一応、兄弟になるけれど…私は違うのよ」 しかしユカリは、アキラへ普通に真実を答える。 「……分かった」 アキラは、ポツリとつぶやいて、ユカリから手を離す。 「それでは失礼します。コウジ」 ユカリは普通に健次とアキラへ挨拶をして…コウジにも挨拶を促す。 「はい!先生さようなら…アキラもバイバイ、またね」 コウジはアキラにも明るく挨拶して帰っていく… しばらく言葉が出ない健次。 「…いこ」 アキラはなかなか動かない健次を呼んで歩き出す。 「…アキラ、」 健次は、ユカリに緩く突き放されたアキラを心配するが… アキラはまた、何事もなかったように、ただ無表情で歩く… 健次が、かける言葉に迷っていると… 不意にアキラが呟く… 「ごめんなさい…」 おとなしい声で… 「えッ、アキラ?」 突然謝るアキラに驚き瞳を見ると… 「心配かけてる…オレ、けんじさんに…だから」 ぽつりぽつりと伝えられる言葉…アキラは健次を見て、そんなことを言う。 こんな幼い子が…気遣って… 健次は、アキラの肩をよせ… 「そんなことを…アキラが気にしなくてもいいんですよ。アキラは子どもなんですから、もっと大人に迷惑や心配をかけても、全然悪いことではないんですよ」 アキラに不足している気持ちを教える。 「……」 アキラは健次を見て…少し首を傾げる。 「アキラ…何か話したいことがあれば…知りたいことがあるなら何でも聞いてください。力になりますから…」 健次はさらにアキラの言葉を促す。 「…健次さんが、知ってる事は何?」 ようやくぽそっと聞いてくるアキラ… 「僕が知っていること…?なぜ?」 「知ってる事だけ聞く…その方が、無駄がないから…」 「アキラ…」 あっさりして大人びたアキラの表現に…なんとなく悲しくなる健次。 もっとこどもらしくあってほしいのに… 今からでは遅いのか…? 「何か、おかしい事…言った?」 健次の表情を見て呟くアキラ。 「いえ、ただ…アキラもコウジのように、元気良く笑って話してくれたら…と思いまして」 軽く笑って付け足すように健次は言ってしまう。 「……健次さんも」 長い沈黙のあとポソっと話しはじめるアキラ。 「えっ?」 「……健次さんも、可愛いげないオレは…扱いにくいと思う?」 感情を見せない瞳で…聞いてくるアキラ。 「アキラ…そんな事は」 突然そんなことを聞くアキラに、慌てて否定する健次。 「いいよ、家政婦によく言われてたから…可愛いげない、子どもらしくないおかしい子。でも…どうすれば普通の子どもになれるのか、いつも分からなかった」 ずっと独りだったから… 「でも、ここには沢山、子どもがいる。普通の、みんなを見て…分かった、やっぱり…オレは、違う…って」 俯いて言うアキラ。 「そんな事ないですよアキラ、みんな同じでなければいけないと言うことはないんです」 健次は慌てて言葉を出す。

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