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第7話 梅雨はすぐそこに 一
しばらくぼやっとしていた僕は寒さに肩をすくめながら道路の向こうのコンビニに入った。
棚を見ながら本当に無くなってるものがないかと探す。
「 馳さん、買い物?」
その声に振り向いたら薄いグレーのセルフレームの眼鏡をかけてスーツを着た男性。
誰だろ?その人が喋ろうと開いた口元を見てわかった。
「 原田さん……びっくりした!
その格好は?」
「 えっ、僕だってわかんなかった?」
「 口元のホクロで、やっと 」
と、コクコクと頷くと、
噴き出した原田さん。
「 殆ど毎日会ってるのに、ひどいなぁ 」
「でも、メガネにスーツじゃないから 」
「 そう?」
そう言いながら腕を伸ばすと僕の真ん前の棚からカラフルな絵の袋をありったけぜんぶカゴに入れる。
「 なんですか?そんなに 」
「 これ焼きビーフン、材料と一緒に炒めるだけなんだ。味はついてる!簡単、美味しい、安い、黄金の三角 」
「 へぇ 」
と感心した僕の籠にも2袋取って入れる。
「 食べてみて、本当だからさ 」
「 あ、はい 」
原田さんの籠を覗くと、ハムと半キャベツとピーマンが入ってる。
「 今から夕ご飯ですか?」
「 そうなんだよ、繁忙期でさぁ」
と言いながら酎ハイを半ダース掴んで籠に入れた。
「 馳さんは?」
咄嗟に言葉が出ない。
「 そうだ、ラップ買わなきゃ 」
半分誤魔化すように隣の棚に移ると原田さんがレジに並んでいた。
僕も一人置いて後ろに並ぶ。レジを済ませて外に出ると、原田さんが待っていたので一緒に帰ることになった。
どこに勤めているのかはわからないけどかなりブラック?な職場らしく、明るく泣き言を並べるお喋りに僕の心は少し軽くなる。
家に入るのは先に原田さんの玄関の前を通る。
先日のズブロッカの感想とお礼を言うと、
「 馳さん、ちょっと寄ってかない?一人で飯ってつまんなくってさ 」
ニコニコしながら原田さんが僕を誘った。
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