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第2話
来栖榮という男は訳が分からない男だと、昔から周りは敬遠していた。
成績優秀、容姿端麗、しかも実家はかなりの金持ちで周りに群がりたい奴らは多かっただろう。
しかし榮の会話の内容はいつも宇宙人並で、常人では成り立たない。
気がつけば周りも榮を腫れ物にさわるように遠巻きになっていっていた。
俺は幼稚園の頃から榮と一緒にいたので、対処法はよく分かっていた。
「アホらしい。つまるところ、女に飽きられて捨てられたんだろ」
ぽいと榮の身体を放り投げて、シャツを脱ぐと寝室に向かう。
話を聞く気にもなれない。
今更ノコノコ戻ってこられても困る。
俺は脱ぎ散らかしたスエットをかぶって寝てしまおうてベッドへと近寄ると、ベッドの上に見慣れぬものを見つけると、再び驚きに体の動きを止めた。
そこには、まだ生後数ヶ月だろうか、よちよちと這いずる赤ん坊がいた。
「なあ、麻次。すごく可愛いらしいだろ、僕らのベイビーだぞ。名前は想麻 。待たせたな、何度も失敗して凄く時間がかかってしまった」
寝室に入ってきた榮はベッドに近寄ると、それを抱き上げて、ママですよとか勝手なことを言って俺に抱かせようとしてくる。
振り払いたいが、子供を落としたら大変だから簡単に手は出せない。
「僕らだァ?!知らねえ女との子供を連れて、よく俺の前におめおめ顔を出せたな、いいかげん殴るぞ」
不思議そうな顔をする榮を、俺は睨み下ろす。
三年前、俺がどんな思いで去っていくお前の背中を見送ったか分かってはいないだろう。
子供を産んでやれないこの身体を、どんなに呪ったかなんて。
分かってもらおうなんて、そもそも思わない。
榮は他人のことなど考えるような人間ではない。
「殴られる前に.....消えろ」
俺が本気で殴れば榮の細い体はただじゃすまない。
子供もどうなるか分からないだろう。
幼馴染で俺以外に誰もコイツを理解できないと優越感に浸って、求められるままに体の関係ももって、そもそもが腐れ縁だった。
だけど、それでも愛されていると思っていた。
でも、俺も榮を理解なんか出来ていなかった。
榮は子供をあやしながら不審そうに俺を見返す。
「女?何言ってんだ。僕は、麻次と僕のDNAを残したくて試験管ベイビーを作ったのだけど。ちゃんと政府にも認めて貰って戸籍もあるんだ。あとは、麻次と僕が結婚するだけでしょ?」
ママはヒステリーみたいですね、生理なんですかねぇとか訳の分からないことを抱き上げた子供に言いながら、半ば確定を疑わないプロポーズを口にした。
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