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第3話
落ち着いて考えよう。
このままだと子供ごと榮を殴り倒してしまいそうだ。理性的にならなくてはならない。
押し付けられた赤ん坊を俺は抱き上げて、生暖かく湿っぽい柔らかな感触に眉を寄せる。
子供の扱いにはなれていないから、緊張で頬が引き攣る。
赤ん坊にしては整った容姿で、榮の子供だけあって血は争えないと思う。
突拍子のない榮の話に、俺の頭は全く追いつかない。
「少し研究に夢中になっていて、連絡がなかなかできなかったのは謝るが、お前は何でそんなに怒っているのだ」
訳が分からないとばかりに、自然に俺の横に座りパーソナルスペースを占拠してくる榮に、俺は溜息しか出てこない。
「三年だぞ。テメェには少しなのか」
頭の中で落ち着けと何度も繰り返し、手が出ないように赤ん坊をあやすふりをする。
彼氏に子供を作ると言って出ていかれたら、振られたもんだと考えるのが普通だろう。
「俺がおとなしく待ってると思っていたのか。恋人を作っているかもしれないだろ」
そう返すと、榮の腕が俺の腰にかかりカチャリと眼鏡を置く音が響く。
「僕が麻次との子供を作っているのに、麻次が浮気をするわけないだろ」
確信に満ちた答えに、俺は露わになった綺麗な顔をチラと見て奥歯を噛み締める。
こいつは昔から、俺がこの綺麗な顔に弱いことを知っている。
だから、何かをして許されたいときは必ず眼鏡を外す。
「俺はテメェの子供を作るなんて許可してねえ。道徳とか倫理的にありえねえ」
「え。あんなに子作りに励んだのに?セックスする時点で僕との子作りに同意してるわけだろ」
榮の思考回路は、本当に常人には理解の範疇を超える。
そりゃ、セックスは元々そういうもんだろうが、男同士では成り立たない。
だから、俺は諦めたというのに。
俺は赤ん坊を抱き上げて、それをマジマジと見つめる。
この子供のどこに俺のDNAとやらが入っているのか全く分からない。
顔は榮にそっくりなので、コイツのDNAがばっちり入っているのは分かるのだが。
信用なんかできない。
「してねえよ。男同士でそんな同意なんてないだろう。大体、作るって訳が分からねえ」
「麻次の細胞を採取して卵核を作って、僕の精子と結合させて試験管で育てた。本当は母胎で育てるのがいいのだけど、麻次の体は硬いし仕事もあるだろうし、痛みに耐えらないと死ぬかもしれないしリスクがでかいから。でも代理母とか嫌だし。なかなか難しかったのだけど」
大真面目にべらべらと説明する榮に俺は呆れて天井を見上げた。
そういう了見を聞いているわけじゃない。
「とりあえず、帰ってくれ。今は頭が整理できん」
噛み合わない話と一緒に、俺は赤ん坊を榮に押し返した。
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