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第5話

二十代後半にもなったというのに泣きじゃくる榮をホテルの部屋まで送り届けて、俺は漸く自分の部屋に帰りついた。 昔から榮はコミュニケーション能力を持っていない。 自分の頭の中で完結させて他が理解してると思い込んでいる節がある。 しかも、それが当然だと考えている。 ちゃんと榮の真意を確かめなかった俺も迂闊だった。 「許す、か」 俺はスエットに着替えて疲れた身体をベッドに横たえた。 三年前、生きる屍になるくらいに俺は傷ついたし、正直死のうかなんて後ろ向きなことも考えた。 死ななかったのは、榮の為に死ぬだなんて悔しすぎたからだ。 思い返せばショッピングモールで楽しそうなファミリーを見たりした時、物欲しそうな顔をしたかもしれない。 他人のことを気にしない榮が、俺の態度を見て動いたのだ。 思っていた以上に、愛されていたのかもしれない。 一人になって考えると、何だかそんな気持ちになってくる。 今日は榮を泣かせたが、まあこんなことぐらいは、ささやかな仕返しだろう。 ちゃんと分かるように説明をしてから、俺の許可をもって行動するように言って、その上でプロポーズを受けてやってもいいかもしれないな。 俺は現金にもすっかり絆されて、明日の朝、榮たちを迎えに行こうと思い眠りに落ちた。 ガンガンガンと署から渡されている通信機の激しい音が響き、俺は飛び起きた。 緊急警報か、火事か。 通信機に手を伸ばして、いつものようにスエットを脱ぐとシャツを手にする。 今日はこの地区で二度目だなんて、やっぱり放火が流行っているのかもしれない。 眠たい目を擦り通信機の通知にある発火場所を見て、俺は思わず通信機を取り落とした。 『〇△リバーサイドホテル』 それは、俺がつい数時間前に榮を送り届けたホテルの名前だった。

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