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第6話
自分の身体の動きがまるでスローモーションみたいにままならず、苛立ちばかりが胸の中を駆け巡る。
署までバイクを飛ばしたが、すぐに出動できそうな隊員が見当たらない。
来たヤツらを捕まえて行くか。
単独行動はできない。
さっさと耐熱防護服を被って、周りを見渡し救命士の宮原さんと、まだ眠たそうに欠伸をしている救助隊の織田を引きずるように消防車に乗せる。
「イッチー、いつになく強引」
ぶーぶーと文句をたれる織田に悪いと言いながら車を発信させる。
「現場に知り合いが泊まってんだ」
俺の必死な顔つきに、宮原さんは運転席に身体を乗り出す。
「一ノ瀬、そこをどけ。冷静ではないやつに、運転させられん」
胸ぐらを掴まれ運転席を奪われ、サイレンを鳴らして走り出す音を聞く。
「5階までの宿泊者は避難できたみたいだ。イッチーの知り合いは何階に泊まったんだ」
織田は無線で現場に連絡をとると、俺に聞く。
ホテルは俺がとったのだ。忘れるはずがない。
「9階だ.....」
あの時、榮を追い出したりしなければよかった。
ぐるぐると後悔ばかりが頭の中を駆け巡る。
「出火元は6階らしい。はしご車も出てる」
「一ノ瀬、冷静になれ。心配なのは分かる」
宮原さんの言葉に、脈拍が異状に上昇しているのが分かる。
気持ちばかりが前のめりで、額に冷や汗がダラダラと浮かんでいるのがわかる。
俺のせい、だ。
現場に到着すると、さっき訪れたばかりのホテルがもやもやと黒い煙の中に歪んで見える。
「イッチー、一緒に行くぞ。一人でなんて行動すんなよ」
いつも怠そうな織田が俺の腕を握って、俺の頭に防炎ヘルメットを被せる。
9階に榮はいる。
人一倍臆病なヤツのことだから、きっと動けずにそこにいるに違いない。
助けにいくから。
待っていてくれ。
俺は織田の腕を振り切って、ホテルの非常口へと駆け出した。
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