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第7話

非常階段の扉を開くと、すぐに煙り臭さがたちこめてくる。 館内地図は渡されたが、6階には火元になる施設はないようだ。 客室が燃えたのか。 「イッチー、だから一人で行くな。大体、知り合いに携帯で連絡とかしたのか?先に逃げてるかもしれないだろ」 ぜーはーと荒い息を吐き出し、追いついてきた織田は階段を登る俺の腕を掴む。 「.....携帯の番号やメアドは消去したから知らない」 連絡先は全て消したし、自分の携帯番号も変えてしまった。 だから榮からの連絡もこない。 「らしくねえな。とりあえず、単独行動はやめろ。オレがフォローしてやる。続々と他の部隊からも応援は来てるしな」 織田は俺たちが9階に向かうことを無線で知らせてから、一緒に階段を駆け上がってくる。 同僚がこんだけ個人プレーをしたら、俺ならムカついて仕方ないが、織田は体も器がでかいヤツだ。 9階の非常口を開けて中に入ると、むわっと煙が立ち込めている。 救助袋が入ったケースをあけて窓から降ろすと、下にいる別隊の男に合図を送る。 「避難してください。救助袋を降ろしました」 廊下で口を覆った人々を見回して声をかけながら、火のまわりの状況を無線で確認する。 「イッチー、探してこいよ。ここはオレが仕切ってやるから」 「織田、ありがとう」 「後で酒おごれよ」 織田に手を振られて俺は955室へと向かう。 確か9階の真ん中だった筈だ。 泣きじゃくる榮を送り届けてから、数時間も経っていない。 こんな形でまた来るなんて思わなかった。 濃くなる煙に、一酸化炭素中毒を起こしていないか不安になる。 煙にまかれて、動けなくなったら終わる。 ドアを開こうと手をかけるが、全くびくともしない。 「開けてください、避難してください」 榮がいるとは思ったが、念の為他人行儀で声をかけるが、ドアが開く気配はない。 腰につけた道具から、引き具を取り出すとメキメキ音を響かせてドアを壊してぶち破って中に入る。 煙はすでに回っている。 「さかえ、どこにいる!!榮!」 周りを見廻すが人影はない。 逃げたのか。 その時、うぎゃーうぎゃーと赤ん坊の泣き声がバスルームから聞こえる。 こっちか!? 俺は慌ててバスルームをあけて中に入ると、赤ん坊を抱え込んだ榮がぐったりと倒れていた。

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