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第8話
「さかえ、榮!おい」
「......ま、つ、まつ.....、ごめん、まつ.....。ぼく、しんじゃう」
「死なねえよ、バカ!頑張れ」
俺を視界に入れたようだが、多分一酸化炭素中毒をおこしているのか朦朧とした様子だ。
携帯酸素ボンベを榮の口に覆って、泣きじゃくる赤ん坊を引き取り身体を背負う。
赤ん坊はギュッと抱きしめられていたからか、煙は吸い込んでいないようだ。
浴槽にはられた水をちらと眺めて、俺はため息をつく。
逃げ遅れた浅知恵で水で消火でもしようと思ったのか。
頭がいい癖に、こんな密閉された空間で除湿機の電気がら切れたら他の階からの煙が一番入り込むってのも気づかないのか。
安堵とともに腹がたって仕方がない。
榮の身体を担ぐと赤ん坊を小脇に抱えて、俺は部屋を脱出する。
消火活動も始まっているから、多分ここまで火はこないとは思うが、いつ崩れるか分からないので猶予はない。
それに、榮も早く処置をしなくては本当に死んじまう。
気ばかり焦りながら廊下を駆けて、避難者を誘導する織田と合流する。
「知り合い見つかったか」
「ああ、中毒起こしてる。下に降ろして宮原さんに処置してもらわないと」
俺の焦りを察して、織田はすぐに榮の身体を受け取りはしご車の台に乗せる。
「ひゃー、すっげえ美人だね」
軽口を言うが、赤ん坊を見るとまずいなと呟く。
「イッチー、その子を抱えて先に降りてくれ」
「しかし、織田がひとりになるだろ」
「降ろして、宮原さんに預けたら戻ってこい」
俺は織田の言葉にありがたく頷くと、はしご車に乗って榮と赤ん坊と一緒におりた。
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