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第9話

榮たちを宮原さんに預けて現場に戻り、織田と救助活動と現場処理をおこなってから、榮が運ばれた病院に着いたのは、すっかり朝になっていた。 「麻次が、助けてくれたって聞いた」 「覚えてねえのか」 まあ、中毒でくらくらだったしな。 俺は買ってきた定番のりんごを剥き、ベッドで寝ている榮の簡易テーブルに置いた皿の上に置く。 榮は一酸化炭素中毒をおこしていたが、子供の方はなんともなく、医者も凄い生命力だと感心していた。 すっかり元気になっているので、榮の脇にベビーベッドを据えて寝かされている。 「間に合って良かった」 「ありがとう.....もう麻次に会えずに死ぬのかと思って、悲しかった。僕には麻次しかいないから」 眼鏡をかけていない顔でうるうると見上げられると、胸がキュッと掴まれる。 「だろうな。大体、部屋の外に逃げるのが鉄則だろ。なんで風呂場なんだよ」 「火が来ても中に入ればいいかと」 「中に入っても火が来たら水も沸騰するだろ!釜茹でになりてえのか」 「ごめん.....」 「わりぃ、怒りたいわけじゃないんだ。子供のことも鑑定とかすりゃ、分かる話だし」 「いや、失敗ばかりするから、ちょっとだけ遺伝子操作しちゃったから.....」 だから鑑定してもうまく判定でるかわからないと榮は首を横に振る。 「.....信じろと?」 「頭脳と顔は僕の遺伝子からで、肉体的な部分や生命力の強さは麻次のをピックアップしたんだ」 生命力の強さね。 赤ん坊の癖にタフなのは、俺ゆずりだというのか。 「信じてもらうしか.....、僕は麻次にしか勃起しないし」 昔からそんなことを言っていた。昔はそれが可哀想になって全てを許したような気がする。 「分かった.....、信じる」 「じゃあ、結婚してくれる?」 ぱっと顔を輝かせて、下から覗き込まれて俺は肩を落として頷いた。 三年間、恋人すらできなかったのは、どこかでコイツが戻ってくると思っていたからだろう。 引越しして連絡先も変えたのに、親に口止めをし忘れたのも、そういうことだろう。 「そうだな、お前だけじゃ、その子の成長が心配だからな」 「想麻って呼んでよ。麻次を想ってつけた名前なんだから」 りんごを齧りながら嬉しそうに、子供を横目で見て抱いてあげてと言う榮に、俺は眠っている想麻を抱き上げた。 「ひねりもない名前だな」 照れて呟くと、何も無かったようにすやすやと眠る湿っぽい身体を軽く抱きしめる。 とくとくと少し早めに繰り返す想麻の鼓動が、また息を吹き返した恋情のようにも思えた。

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