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「誰か、マサキの携帯以外の連絡先知らないか?」  名前が上がったのは、少々残念な容姿の売り子だった。 「マサキがどうかしたんですか?」  すかさずユッキーが問うと、マネージャーの顔が苦しげに歪んだ。 「客の所へ行ってないらしい。予定からもう1時間過ぎてお怒りだ」  マサキの相手はこの店の常連客であり、オーナーの仕事繋がりの相手らしく、怒らせると少々厄介な相手だった。 「でも、マサキは大分前に出て…」 「逃げたんだ」  誰からとも無く言われた言葉にマネージャーが頭を抱える。 「不味いな、今日の相手は美形嫌いだから…今は誰も回せない」  オーナーに連絡するしかないか、とマネージャーが携帯を手に取る。しかし… 「俺、行きますよ」  マネージャーの手から携帯を奪った。 「糸…?」 「数馬さん、今日は忙しいって言ってたから。取り敢えず俺でどうか相手に聞いてみて下さい。ブス専なら俺でもイケるでしょ」  マネージャーはポカンと俺を見ていた。 「処女でも良いか、聞いてくださいね。ほら、マネージャー早く」  俺がそっちに側に行くとは思わなかったのだろう。売り子達もみなポカンとしていた。  マネージャーは魂が抜けたように相手に連絡している。その内話しながら此方を振り向いて、俺にGOサインを出した。 「糸くんッ」  只でさえ1時間遅れているのだ。  慌てて目的地のホテルまでの地図を片手に部屋を出ようとすれば、後ろからユッキーが俺の腕を掴んだ。 「相手はネコじゃなくてタチだよ!? 本気で行くの!?」 「穴使うなら勃たなくても良いし、丁度良いだろ」 「糸くん!!」  もう一度引かれた腕に振り返る。  ユッキーの後ろで、マネージャーが心配そうに佇んでいた。  見知らぬ男にカラダを好きにされるなんて、怖くない訳がない。でも、あの店にいて、衣食住を与えられて、それが電話番だけで釣り合うとは思っていなかった。 「これで少しは恩返し出来んのかな、俺」  そう言えば、何故かマネージャーもユッキーも泣きそうな顔をして俺を見ていた。

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