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Ⅰ:12
「なにしに来た! まだ途中だぞ!」
「“ソレ”は売り物ではありませんので引き取らせて頂きます」
「ぐぅッ!!」
居るはずのない人…数馬さんは、酷く冷たい声で言い放つと八島を蹴り飛ばし、その下に居た俺を引きずり出した。
「かずま、さん…」
「……………」
声音からして、完全に怒ってる。
また凄い形相をして俺を見てるんだと思いながらも、恐る恐る俺は数馬さんの顔を見上げた。が、
「ぁ……」
俺は呼吸を忘れてしまった。
だって、数馬さんの顔が…
「おい! 何考えてる! 俺にこんなことして良いと思ってんのか!! あ!?」
俺がもう一度数馬さんに声を掛けようとしたところで、八島の怒声がそれを止めた。
数馬さんは俺から目を逸らし八島を見ると、まるでツバでも吐く様にして言い捨てる。
「恩義のある相手はアンタじゃないんでね」
「なにぃ!?」
「あの人の弟だからと多少大目に見て来たが…まぁ、それも今日までだ」
数馬さんはそのまま俺を荷物みたいに肩に担ぐと、さっさと八島に背を向けて歩き出した。
数馬さんの後ろについて来ていたホテルマンらしき青年が、慌てて担がれてる俺にシーツをかける。
「仕返しっ、仕返ししてやるからなぁ!!」
まだ後ろから叫ぶ八島に、数馬さんは一度だけ足を止め首だけで振り返る。
「こんなトコで遊んでんの、バレて困るのはアンタじゃないのかぁ? なぁ、八島組の雌犬さんよぉ」
それきり八島はパタリと大人しくなり、今度こそ誰に止められる事もなく俺たちはホテルを後にした。
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