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Ⅰ:16

「糸、血まみれですから…」 「…………」  誰にでも容赦のない数馬さんが柄にもなく、血まみれな俺の顔を見て足を退けようとする。けど… 「あ?」 「糸…?」  退けようとした数馬さんの足首を、俺は無意識に掴んでいた。 「……ねぇ、で」 「なに?」 「…捨てねぇで、かずまさん」 「ッ、」  腫れあがって視界の狭まった目でも、数馬さんとマネージャーが驚いた顔をしたのが分かった。  俺、そんな変な事言ったかな。 「間違えたら、殴って。言う事、聞くから。ちゃんと…守るから」  俺がカラダを売れば、それで恩返し出来ると思った。  褒めてもらえると思ったんだ。  でも、それがこんなに数馬さんを怒らせることになるなんて思わなかった。  そして何より、迎えに来た時の数馬さんは汚れた俺を見た瞬間、凄く…凄く悲しそうな顔をしたんだ。  それがどうしてかなんてあの時の俺には分かんなかったし、今だって正直分かんない。それでも、あんな顔は二度とさせちゃダメだって思った。  だからもう一度やり直させて欲しい。  俺は数馬さんを喜ばせたいし、俺は数馬さんに褒めてもらいたい。  母親に捨てられたって何とも思わなかったのに、死にそうになっても怖くなかったのに、俺はこの人に見捨てられることが…どうしても怖いんだ。  数馬さんの言う通りに動くだけで願いが叶うなら喜んでそうする。  だから、だから頼むから俺を… 「捨てねぇで…お願い」  俺は残った力を振り絞って数馬さんの足にしがみ付いた。  数馬さんはしがみ付く俺を振り払わなかった。けど、その代わりに…

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