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Ⅰ:終

「あでッ!?」  バシン! と良い音を立てて俺の頭を平手で叩いた。  音程痛くないそれは、先ほどまで与えられていた“暴力”とは違うのだと分かる。  驚いて足元から数馬さんの顔を見上げると、そこには片方だけ口角を上げて笑ってる数馬さんが居た。  そう、笑ってたんだ、あの数馬さんが… 「バァーカ、誰が捨てるっつったよ。俺はこう見えても責任感が強ぇ男なんだ、一度拾ったもん簡単に捨てたりしねぇよ」 「へぇ…」  良くわからず返事をすれば、数馬さんもマネージャーも変な顔をした。敢えて言うなら、残念そうな顔…か。 「兎に角、今度勝手に何かしてみろ。お前の首に縄付けて縛って自由に動けねぇ様に閉じ込めてやっからなぁ。覚えとけよこの駄犬」  数馬さんは今度こそ俺を足から振り落とした。  俺はそのまま床に転がる。  部屋を出て行く数馬さんをマネージャーが追いかけて行って、何か少しだけ話をしてから数馬さんだけが部屋を出て行った。そうして部屋に戻って来たマネージャーの顔は、何故か赤かった。 「どうかしたの、マネージャー」  寝転がったまま俺がそう聞くと、マネージャーは困ったように笑いながら俺の横にしゃがんだ。 「何でもない。それよりお前、立てるか?顔がひでぇことになってんぞ、早く洗って冷やせ」  俺は手伝って貰いながらなんとか起き上がりソファに移動すると、キッチンへと消えて行くマネージャーに声を掛けた。 「……ねぇ、マネージャー。結局俺って、捨てられずに済んだの?」  そしたらマネージャーは「当たり前だろ、明日からもしっかり働けよ」と言って俺に濡らした冷たいタオルを投げて寄こした。  俺はそれで顔を拭いながら、ウトウトと眠りの世界に誘われる。 八島の相手で心身ともに疲れていたし、その上数馬さんからの暴力で俺の体は限界を越していた様だ。  今日はもういいや。明日から頑張ろう…。  そう思った途端、俺の意識は簡単に夢の世界に連れて行かれた。  だから俺は知らない。 「お前、とんでもねぇ人に捕まっちまったなぁ」  そう言って、眠る俺を見下ろしたマネージャーが苦笑していた事を… 第一章:END

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