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Ⅱ:2
「やっほ~! 謹慎3日目元気にしてる~?」
「………」
ドアを開けた目の前には、セーラー服を身に纏った少女…の様な青年、ユッキーが手を広げて立っていた。
「お前……着替えろよ」
「やだなぁ、使用済みじゃないよ? コレはさっき新しく入ってきたヤツで、似合うかどうか着てみてたんだけど、どう?」
ユッキーはスカートの裾を持ってくるりと軽快に回る。それに合わせてふわりと上がったスカートから細く白い太ももが露わになったが、俺には女装した男がただ回った、と言う事実しか認識できなかった。
「いや、分かんね」と正直な気持ちを呟けば、やっぱりユッキーは頬を膨らませて拗ねる。
「どうでも良いけど何しに来たの」
「糸くん冷たいっ! 退屈してると思って遊びに来てあげたのにぃ」
「いや、この部屋立入禁止になってるはずだけど」
それに遊んでたら謹慎にならないと思うけど。
そう言ってもユッキーは「良いの良いの、どうせオーナーは夜しか来ないでしょ」と言って部屋の中にズカズカと入り込んで来た。ホント、大人しそうな見た目と中身のギャップが激しい奴だと思う。
「部屋の中、結構綺麗にしてんだねぇ。この部屋ってオーナーも使ってるんでしょ? その割には物が少ないね」
「数馬さんは寝に来るくらいだからな。俺には必要なものって特にないし」
ユッキーは何か言いたげに俺の顔を見ていたけど、結局何も言わずにソファに座った。
「でもさ、オーナーってちゃんと自分の家があるよね?」
「うん、すっげぇ高級なマンションだってマネージャーが言ってた」
「なのにここに寝に来るの?」
ユッキーは部屋の中をぐるりと見回し首を傾げた。
「一人には十分な広さだけど、男二人には狭いよね。オーナーっていつもどこで寝てるの?」
「何処って、そこ」
俺は部屋にひとつだけ有るシングルベッドを指差す。
「え…じゃあ糸くんは?」
「?、そこ」
俺がまた同じベッドを指差すと、今度こそユッキーは目を見開いて驚いた。
「一緒に寝てるの?」
「そこ以外に寝るとこ無いだろ、それに毎日って訳じゃないし」
「いや、そう言う問題じゃ……ま、い、いいや。あ! そうだ僕暇つぶしを持ってきてあげたんだった!!」
何かもごもごと口ごもっていたユッキーは、勝手に自分で解決したのか話の流れを変えた。
そしてここに来た時からずっと持っている紙袋を漁りだす。
「じゃじゃ~ん! このあと各プレイルームに置く予定の、新作ゲイビで~す!」
「げいび…」
「AVは分かるでしょ? それのゲイ版だよ」
「何でそれを俺に見せるんだよ」
俺ゲイじゃ無いんだけど、とユッキーを睨めば、ユッキーは目線を宙に泳がせた。
「だ、だってほら、八島さんに酷い目に合わされたって聞いたし…でもここ辞める訳じゃないんでしょ? それならちょっとでも男同士に対する悪い印象が拭えないかな~って思ったりなんかしちゃったり…して」
それで持って来た物がゲイ物のAVかよ…とは思いつつも、それがユッキーの優しさなのだと思えば受け入れるしかなかった。
「……見る」
「ほんと!? あ、強姦ものとかじゃないからね! 溺愛ものだから!」
「分かったから。でもこの部屋テレビ無いんだけど」
「ふふふ、抜かりはないよ。隣の部屋には大型テレビがあるのでぇ~す!」
そう言ってユッキーは、この部屋の隣、502号室の鍵を取り出した。
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