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Ⅲ:4

「そんなに警戒しないで。ちょっと話がしたいだけなんだ」  ね? と笑いながら男が置いたお茶は、とても綺麗な黄緑色。 「……言っとくけど俺、口の利き方知らないよ」 「なんだ、そんなこと」  向けられる笑みはやはり女の様だと思った。男はお茶を自身の分も机に置くと、ゆっくり俺の対面側に座る。その全ての動作が綺麗だった。  こう言うのを育ちが良いと言うのだろうか。 「数馬さんは」 「時間がかかるからね、キミとは一緒に戻れない」  俺たちがこの男、八島の車によって強引に連れて来られたのは、目玉が飛び出るほど巨大な豪邸。  大きな門構えに、中に入れば剪定の行き届いた草木が並ぶ日本庭園。もちろん大きな池もあって、そこには濁りの無い綺麗な水と色鮮やかな大きな鯉。  そこは、昔一度だけ道に落ちてる漫画雑誌で見たヤクザの家そのものだった。  道中、八島も数馬さんも終始無言を貫き妙な空気が流れてた。そうして着くなりこの部屋に通され、数馬さんは一度だけ俺を見たかと思うとそのまま目を逸らし、酷い顔のまま迎えに現れたイカツイ男と共に何処かへ消えた。  その場に残されたのは、俺とこのオカッパ頭の八島だけ。 「俺に聞きたい話って、なんなの」  綺麗な色のお茶には手を伸ばさず、俺は八島を見た。 「ああそうだった。なに、簡単なことなんだけどね? キミと数馬くんの関係が詳しく知りたいんだ。どうやって仲良くなったのかな?」  ニコニコしながら俺を見る目は、数馬さんとも、店の誰とも違う冷たい目だ。 「俺はあの人に拾われた」 「それは知ってるよ」 「だったら何が知りたい? 俺、頭悪りぃから遠回しじゃ分かんねぇよ」  俺がそう言うと八島は笑って立ち上がった。そしてそのまま綺麗な動作で歩き、やがて俺の横へと腰を下ろす。 「じゃあハッキリ言おうね。どうやって彼に取り入った?」  冷たい指が俺の頬を撫でる。

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