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Ⅲ:5

「私の知る数馬くんは、“執着”なんて言葉とは無縁な男でね。今まで誰一人として彼の内側に入ることは出来なかった。だがどうだい? 今ではキミにいたくご執心だ。毎日キミの元へ通っていると言うじゃないか。一体どうやったのか、皆興味津々なんだよ」 「……取り入ったって、何? 俺はただ拾われただけだ」 「そうして彼のお気に入りになった? ただそれだけで?」 「何が言いたい」 「怒らないで、私はただ純粋に知りたいだけ。彼はね、キミと出会うまでは私と同じだった。私と同じ目をしていた。誰も信じてない冷たい目だ」 「……アンタが冷たいのは目だけじゃ無い」  頬を触る手を振り払うと、その手はそれ程遠くへ行く事無くすぐに戻って来た。  そうしてさっきより強い力で俺の頬を固定する。 「数馬くんが今何してるか教えてあげようか」  ガラス玉みたいな目が俺を見てた。  あの人の目が“コレ”と同じだったなんて信じられない程、今の数馬さんには熱がある。  俺をドロドロに溶かす、熱だ。 「数馬さんに酷いことすると許さねぇぞ」 「大丈夫だよ、気持ち良いことしかしてない」 「気持ち、良い?」 「いつもキミとしている事だよ」 「……それは、アンタがさっき脅したから?」 「違うよ、コレはキミと数馬くんが出会う前からの契約だ。彼は今、私の叔父の相手をしている」 「………」  俺が八島を睨み付けると、八島は余計に笑顔を深くした。 「ああ言ったゲイタウン一帯は、何処も私たちの様な人間の介入を嫌う。皆で一丸となってそういった類を追い出し、助け合い、あの場所を守ってる。けど、それは表面上だけの話だ。地下に潜れば話は変わってくる」 「手を、組んでるのか」 「表向きのトップは私だが、権力の大半は叔父が握っていてね…何をするにもまず、叔父を納得させなきゃならない。叔父は根っからの男色家で組み敷かれるのが大好きな変態だ。数馬くんがその相手をするのを条件に、組(ウチ)は彼の店のケツモチをしているんだよ。彼が役を引き受けるそれまでは…叔父の相手は私がしていた」  そんな大事な話を何故俺に…? そう思ってポカンとしていると、八島が急に俺へ覆いかぶさってきた。

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