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Ⅲ:6
「そう言えばキミは、弟の相手もしたそうだね」
「一回だけだ」
「弟はここで“雌”にされる度に『トイ』と口にする」
「最後までヤれなかったからだろ」
「それでも。“諦めきれない何か”がキミにはある。違うかい?キミの何処にそんな人を惹きつける魅力があるんだろう」
知るか!! と叫びたいのを堪え口元をキュッと結ぶと、それを咎めるように頬に乗っていた手の親指が唇をなぞった。
「キミを抱けば私にも何か分かるかな?」
「…………」
「聞いていたよね? 数馬くんとの取引の話。彼とは今、新しいビジネス契約を結ぼうとしているところだ。きっと直ぐにでも色良い返答が欲しいだろうが、まだ検討中でね」
「俺がアンタと寝れば、その契約の話を決めてくれるってことか」
「何だ、思っていたよりお利口じゃないか」
倒してきた体を更に密着させた八島は、唇をなぞった手を首筋に流し、曝け出された肩のラインを辿る。
こんな時になって漸く、数馬さんの選ぶ服の好みを恨んだ。
何とか体を離そうと八島の胸元に手を置き力を入れるが、その和服を纏った体はビクともしない。指先からも程よい筋肉の弾力が伝わってきた。
カナリ鍛えているようだ。
「弟相手にヤッてりゃ良いだろっ」
吐き捨てるように言うと、俺を見下ろす顔が口角を上げる。
「私は近親愛者でも、同性愛者でもないからね。アレは“組”の雌だ。私のではないよ」
「だったら何で俺にこんなこと!」
八島は動かしていた手をピタリと止めると、俺の顔をマジマジと見た。
「何だ、知らないのかい? 数馬くんはゲイではないんだよ? それに多分、バイでもない」
「え?」
「彼が自ら進んで男に手を出すなんて、私が知る限りキミが初めてだ」
だからこそ、知りたい。
そう言って八島が本格的に俺へと手を伸ばす。
「キミが承諾すれば、私も数馬くんとの契約を呑んであげる。どうする?」
「んっ、」
首筋に顔を埋めたかと思うと耳たぶを柔く食む。見た目は女の様だけど、耳元で囁く声の甘さは正しく女を誑かす“男”のソレだ。
どうする? と選択する余地を与えた様に見せかけて、でも矢張りここへ来る時と同じく、そこに拒否させる隙間は全くなかった。
だが。
「電話をさせて下さい」
「え?」
八島がキョトンとしながら顔を上げる。
「俺は数馬さんのモノです、俺が勝手に判断するわけにはいかない。ちゃんと数馬さんに聞かないと」
覆い被さられたままゴソゴソとポケットを漁っていると、その手を八島に掴まれる。
「どうして? 電話なんてしなくても、数馬くんの為になる事くらい判断つくでしょう?」
「俺がアンタと寝れば、契約が取れる」
「そう、数馬くんが欲しくて仕方ない話を持ち帰れるんだ」
「それでも」
それでも、俺は数馬さんのモノだ。
「確認が要る」
「だから、何故? 少しの判断も許されないとでも? 全てが数馬くんのモノだとでも? 拾われた恩義はそれ程に大きいと?」
八島の声が苛立っているのが分かった。何に苛立ったのかは分からないが…。
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