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Ⅲ:7

「言っただろ、俺はバカだって。アンタの弟を相手した時も、ユッキーと練習しようとした時も、俺はそれが数馬さんに対しての“サイゼン”ってヤツだと思ってた」  でも、違った。  結果はどちらも数馬さんを怒らせる羽目になり、何一つとして喜ばすことが出来なかった。  おまけに俺はボッコボコの血まみれだ。 「殴られるのが怖いのかい」 「怖くないって言ったら嘘になる。でも、それは従う理由じゃない」 「じゃあ、どうして?」  その問いに、俺はそっと目を伏せた。 「悲しそうな、寂しそうな目をするから」 「……え?」  俺が間違った選択をした時数馬さんは、俺を殴り、蹴り、暴言を吐き、酷く犯す。  とても濃い、悲しい色の目をして。 「俺はもう数馬さんを悲しませたくない。でも、いつも俺の判断はあの人を悲しませる。だからもう、俺は自分で勝手に決めたりしない。全部あの人の思う様に動く」 「じゃあ、今電話して何て話すつもり? キミに彼を上手く説得出来るとでも?」  馬鹿にした様な目を向ける八島に、俺は鼻で笑ってやった。だって、説得なんて必要ない。判断するのは数馬さんなんだから。 「八島さんとセックスして契約を決めて良いかって聞くだけだよ」  そうして俺が数馬さんから渡されていた古びた携帯でコールし始めると、覆い被さっていた体を適当にズラした八島がその背を震わせ始めた。 「ッ、……くっ、」 「……あれ、出ないな」 「ぶっ!! あはっ! あはははははっ!」  急に爆笑し始めた八島に、驚いて俺は通話を切る。 「な、なに…」 「何だろう、初めてだこんなの。キミ面白いね! なるほど、ああ、コレなら私でも夢中になるかもしれない」  腹を抱えて笑い続ける八島に俺がタジタジになっていると、八島はその目に浮かんだ涙を拭いながら、先ほどまで見せていた冷たい笑みを引っ込ませ柔らかく笑った。 「もう良いよ、帰してあげる」 「え? でも…数馬さんは、」 「言っただろう? 彼は今、それこそ腰を振るのに忙しい。叔父はとんだ淫乱だからね、まだまだ放して貰えないさ。電話にだって出られないよ、きっと」 「あ……そっか」  俺は手に握りしめた携帯を見つめた。  数馬さんは今、俺の知らない誰かを抱いてる。  そう思ったら、心臓の周りをギュッと掴まれる様な感覚が襲った。 「何だ、虐め甲斐のある顔をするじゃないか」 「は?」 「無自覚か…、たちが悪いな」  そう言って八島が初めてお茶を口にし、一息に一杯を飲み干す。しかも、俺に出したやつだ。 「それ、俺のじゃないの」 「どうせ飲まないだろう? 勿体無いからね。さ、それより帰り支度を整えようか。車を用意させるから待っていて」  そうして八島が俺の隣から立ち上がった時だった。

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