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Ⅲ:おまけ
【SIDE:芳哉】
ベッドに横たわる糸と、
「また、ヒデェなこりゃ…」
溜息を付く俺。
部屋の中はエロい匂いで充満していた。
◇
ことの発端は昨日のこと。
オーナーと糸はデート(だと俺は思っている)の最中に、この店のケツモチである八島組の組長と出会ってしまったのだ。見た目はとんでもない美人だが、底の底から冷え切った心を持つ恐ろしい男だ。
俺からすれば、それは寧ろ後をつけられていたんじゃないかと思う程のタイミングだったが真相は分からない。
そうして糸が話すには、その後に矢張り色々あった様だが、それにしても…
ベッドに横たわる糸のカラダには、打撲痕こそ無いものの“愛された証”と言うには些か行き過ぎた痕が全身に散らされ、部屋の床には何箱使ったんだと驚愕を覚える数の使用済み避妊具が散乱していた。
オーナーより早朝から呼び出しの電話があったかと思えば、『今日一日糸の世話をしろ。店は俺がやる』それだけ言われて電話は切れた。
で、来てみればこの惨劇。
「何でこんな事になるワケ?」
俺が溜息を吐けば糸が苦笑いする。
「また怒らせちゃったんスよ…」
啼かされ過ぎたのかガラガラに潰れた喉。
床にある避妊具の数だけでも恐ろしいのに、糸のカラダの中からは蹂躙し尽くされた証が溢れていた。
「怒らせたって……話を聞く限り、お前にはキレてなかったはずだろ?」
「違うんです。その後俺が、余計なことを言っちゃったから…それからはあっという間でもう、何が何だか」
手痕、噛み痕、鬱血痕。
泣かされ過ぎた目と、重ね過ぎた唇は紅く腫れ上がっているし、極限まで体力を奪われたカラダは少しも力が入らないのか、中から溢れるそれを留めることも出来ていない。
正直これは酷すぎる。
だが、殴らなかったところを見るとこれは完全に嫉妬の類だろう。あの人の糸へ対する執着は強すぎる…いや、完全に異常値だ。
「お前、何言ったんだ…?」
そうして恐る恐る尋ねてみれば、何てことは無い…
「俺、つい言っちゃったんです。『八島兄と数馬さんは、どことなく雰囲気が似てる』って。だから、なんか…嫌いじゃない…って」
俺は内臓が逆流する程に噎せた。
自分を脅し犯そうとした相手を、自分の恋人(とは思ってないだろうが)と似ているという奴が一体何処にいるだろうか。その上“嫌いじゃない”なんて言ってみろ、オーナーが暴走する事なんて目に見えてる。
「ああ…糸、だからお前は馬鹿だってんだ。お前はもうオーナー以外の人間の話はしちゃダメだ。いつか腹上死すんぞ」
「フクジョウシ? って何スか…?」
「……………」
こうして俺は、後でそっと辞書に付箋を貼るのであった…。
おまけEND
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