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Ⅳ:終
◇
「あっ、あっ、まって、あ…待って、待って! もっ、イッちゃ…からぁ! あっ! かずまひゃっ、あっ、ンぁあっ!!」
糸を繋いでおく役割を担った小さな部屋の中で、まだまだ細く肉付きの悪いカラダを好きにする。抱かれ慣れたその内は従順に俺を受け止め離すまいと蠢いていた。
性欲とは無縁だったはずの淡泊な俺のカラダは、そんな糸を前にすると絶倫の気狂いに変貌してしまう。
どれだけ穿っても抉っても物足りない。孕むほどに欲を吐き出しても物足りない。こいつは、尽きることのない俺の激しい欲望を引きずり出してしまうのだ。
「はっ、はっ、はっ」
「ぁあうっ、うっ、ん! んん! あっ、」
「オラっ、足、上げろ」
「あぐぅっ!! あっ、ぁあ"っ、い"っ」
深すぎる繋がりは多分、糸に痛みを与えている。それでも嫌とも言わず言われるがままに動くその姿に、下半身は更に刺激を受けた。
誰にも触られたくない。
誰にも取られたくない。
取られるくらいなら、いっそこの手で殺してしまいたい。
どうしようもない気持ちでいっぱいだった。
これ程の激情を覚えたことは過去に一度も無かった。
実の父親に多額の借金を背負わされ、母親と共にその身を売られ、好きでもない女を相手に体を差し出す羽目になった時でさえ、冷め切った俺の感情は揺れることがなかった。なのに…
この赤く色づいた哀れな存在は、最も簡単に俺を揺らしてみせるのだ。
「ぁああ"ぁ"あぁ"ああぁあっ!!!」
足をピンと伸ばし痙攣した糸。
ソバカスの上に点々とかいた汗をベロリと舐め取ると、骨が軋む程に強くその身を抱き締めた。糸は意識の無いまま、そんな俺の背を緩く抱き返してみせた。
意識を飛ばしたまま眠ってしまった糸の事後処理だけ済ませると、そっと静かに部屋を出る。
また憂鬱な一日が始まる夜明けを背にマンションを後にしようとすれば、乗り込んだ車に近付いて来る人影がひとつ見えた。
珍しく男らしい服を身に纏っているが、その容姿は矢張り少女の様だ。
「ユキ」
「少しだけ良いですか?」
開いた窓の先に見たユキの目は真剣だった。
話したいことの内容には何となく目星がつく。こいつは、俺と同じものを見ていると知っているから。
「どうした?」
「聞きたいことが…有るんです」
ユキの喉がゴクリと唾を飲み込み動く。
「もしもあの日、別の誰かが数馬さんより先に手を差し出していたら……糸くんはきっと、その人の物でした…よね」
「…………」
「あの時、偶然数馬さんが糸くんを拾っただけで、糸くんは」
「別に誰でも良い、ってか?」
ユキの体がびくりと跳ねた。
「その例え話に何の意味がある?」
「だって! もしかしたら糸くんにも別の道がっ」
「糸が俺から離れたいと言ったのか?」
「っ、……それは」
「もしももクソも無ぇ、あの日、糸に手を差し伸べたのは俺だ。刷り込みだろうが何だろうが、糸が見てるのは俺だけなんだよ、ユキ」
怯んだユキに、俺は大人気なく鼻を鳴らした。
「だがまぁ…その“もしも”ってヤツに答えてやるなら、“もしも”糸が他の奴の手を取ったなら俺は、その手を腕ごと切り落として俺の元に戻すだろうなぁ」
なんせ、アイツは俺のだからなぁ。
ニイッっと笑ってみせると、漸くユキは戦意を喪失した様だった。
「お前、仕事帰りだろ? さっさと体休めて仕事に備えろ。じゃあな」
開いた窓が閉まり切る前に車が走り出す。
バックミラーには、暫く立ち竦むユキの姿が映っていた。
昔から、全身が腐っていく様な、穢れが蔓延していく様な感覚に襲われることがあった。
糸を拾うあの日まではそれが不快で仕方なかった。でも、今は違う。
糸を手元に置き、そのカラダを好きにする度に俺の中の腐食は速度を上げている気がする。しかしそこに不快感は少しも無かった。
糸に深い執着を持ち、嫉妬を覚えた俺はその身の内を日に日に腐らせていく。
だがその感覚は俺にとって、
笑えるほど心地の良いものだった――――――
END
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