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終章:1

【SIDE:芳哉】   ピカピカに磨かれたショーウィンドウ。シルクのリボンで飾り付けられたその中で光る、色とりどりの装飾品。  どう考えても恋人を隣に並べ歩くような、男だけで歩くには少々煌びやか過ぎる店が立ち並ぶその中を、俺はオーナーの背中を見ながら歩いていた。 「八島の所に行くからついて来い」  たったそれだけ言われて連れ出されたのが、今日の朝。仕事が終わり寝付いたばかりだった俺は、オーナーのその言葉に眠りから引きずり出され、既に迎に来ていた八島組の車によってオーナーと共に連行された。  と言っても、何故か俺は屋敷の外で待たされ、数時間後に出てきたオーナーと共に、今度は徒歩で帰ると言う謎の状況に置かれているのだけれど。  何をしに八島組まで来たのか、何故俺を呼ぶ必要があったのかは全く分からず、只管待たされた事に一言くらい文句を言ってやるつもりでいた。だがそんな俺の決意は、屋敷から出てきたオーナーを見た途端あっと言う間に消え失せてしまった。  目の前をゆったりと歩くオーナーの背中。  それはいつだって目に見えない頑丈な鎖に縛られ、自由に動けぬよう雁字搦めにされていたものだった。  肉に食い込むほど強く巻き付いた鎖と共に歩いた後には、必ず彼の流した血の跡が残る。  そんな彼の体が八島の屋敷から出てきた直後から、幾分か軽くなった様に見えたのだ。  俺とオーナーが出逢ったのは大学時代のこと。  オーナーこと“数馬先輩”が母親ほど歳の離れた女性に飼われていると言う話は、俺が同じ大学に入った頃には噂と呼ぶには余りに知れ渡りすぎた事実だった。  昔からあんな感じの人だから、噂のこともあり、余計に先輩を敬遠する人間は多かった。だが逆に、取り入りたいと近づく人間もまた多かった。  私が飼ってあげようか? などと碌な甲斐性も持たずにしな垂れかかる女たちと、パトロンを持つ事実を勇者化して付き纏う妙な信者たち。唯の碌でなしだと罵り軽蔑の目を向ける、常識人ぶった輩。  大学に横付けされる真っ赤なスポーツカーが、いつの間にか黒塗りの車に変わっても。乗り込むその背中を、いつだってそれぞれが勝手な想いで見送っていた。  彼が抱えた深い闇や痛みなど、少しも知ろうとせずに…。

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