8 / 188
第8話
神崎君にこれを伝えるかどうか凄く悩む。
彼の体調が戻ってからでも遅くはないだろう。けれど、上司の居場所は把握しておいた方がいいのか······。
「······いや、やめよう」
体調が悪い時に不安を感じさせるのはいけないな。
仕事はすぐには再開する気にはならなかった。
お腹すいたなぁと、勝手に冷蔵庫を開けさせてもらって、買ってきた食材で簡単なご飯を作って食べた。
お風呂も借りて、スッキリしてからパソコンを見て、立岡から送られてきたどうでもいいメールや、今度志乃に請求する金額を確認する。
「────······母さん」
不意に小さな神崎君の声が聞こえてきた。
近づいて顔を覗くと、涙を流している。熱のせいか、夢を見ているせいか、判断はつかないけれど、苦しそうにはしていない。
「······大丈夫だよ。」
そんな根拠の無い言葉をかけることなんて誰でも出来る。
「君を助けたいな」
そう思っても、心の中はそう簡単には覗かせてくれない。
こんなにも誰かを助けたくて、もどかしい思いをするのは初めてだ。
床に座ってソファにもたれ掛かる。
神崎君の綺麗な顔を見ているのは飽きなくて、気がつけばそのまま眠りに落ち、朝になっていた。
ともだちにシェアしよう!