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第12話

その日の夜、冴島から若の事を聞かされた。 「じゃあ今は別の所に?」 「うん。何が起こるかわからないからって」 その話を聞いて、若の婚約者だった相良舞の事を思い出す。 「······1度会った事がある。あれはブランドが好きらしいからな。なかなか諦めないだろう」 「どういうこと?」 「前に会った時、全身をブランド物で飾っていた。若に執着するのは、眞宮志乃っていうブランドが欲しいからだ。この辺りで若を知らない奴はいないからな。」 煙草を咥えて火をつける。冴島は難しい顔をして自分の手の方に視線を落とした。 「それで梓君を殺そうとしたのかな。」 「殺すならもっと簡単な方法でするはずだろ。」 腐っても極道の娘だ。いくらでも銃は持っているはずだし、刃物なら、顔じゃなくて胴体を狙えばいい。 「じゃあ何が目的だったのかな······」 「ブランドの価値を落とそうとしたんじゃないか」 「······志乃の価値?」 「ああ。眞宮志乃は大切な者を守れなかった。それだけで価値は下がる。」 それが狙いだったなら、捕まらなければ完璧な犯行だったと思う。 「成程ね。それなら彼女はやり遂げたわけだね。」 「ああ。でもその情報を言いふらす奴がいない。······もしこうなった場合に何か策を立ててたなら別だけどな。」 紫煙がユラユラと揺れる。明日若に連絡を取ろう。それから指示を貰わないと。 「あ、神崎君。君に謝らないといけないことがあるんだけど······」 「何」 気まずそうに視線を逸らした冴島。しばらく待ってるとやっと顔を上げた。 「ほら、俺って料理苦手で······」 「そうなのか?」 「うん。だから······フライパンとか、鍋とか、焦がしちゃったから、全部買い換えておきました。」 「······別に、わざわざ買わなくてよかったのに。」 俺が迷惑をかけたのに、そんなの申し訳ない。 飯は美味かったから、得意なのかと思っていた。 「金は返す」 「それはいい!神崎君の体調が戻ったら満足だよ!あ、でもそばには居させてもらうからね」 「それは勝手にしろ」 満足そうに頷いたのを見て、煙草を灰皿に押し付け火を消した。 「風呂に入って寝る。明日は仕事に行くからな」 「うん。でも無理しちゃ駄目だよ」 1度頷いて、着替えを手に取って風呂場に向かった。

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