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第15話
朝、目を開けると鼻と鼻が触れ合うような距離に冴島の顔があった。
驚いて目を見開いて、固まる。「ん······」と冴島が声を漏らして、慌てて顔を上げ離れようとしたのに、カサッと唇に触れたそれ。
「んー······神崎君、おはよぉ······」
「お、おは、よう······」
ベッドから抜けてリビングに出る。キッチンに行って唇に触れる。これが初めてではない。なのにどうしてこんなに······。相手が俺を好きだと思っているから、意識をしてしまっているのだろうか。
「神崎君······?」
「っ!」
いつの間にか俺を追いかけてきていた冴島は、目を擦りあくびを零して俺を見る。
「どうかしたの?」
「な、何でもない。顔洗ってくる」
「え······うん。」
急いで洗面所で顔を洗った。それから歯を磨いて何事も無かったようにキッチンに戻る。
「神崎君、ご飯の予約忘れてた······」
「······パンあるだろ。」
食パンとチーズとベーコンを出した。
「これしかないけど」
「俺もこの食べ方好きだよー!これにマヨネーズかけるのも美味しいよね」
「ああ、昔はよくしてた。」
「やめたんだ?」
「太るからな」
チーズとベーコンを乗せて食パンを焼き、珈琲を入れて焼けるのを待つ。
「······お前、しばらくここで住むのか?」
「君の許可が出たらね。迷惑だってことは理解してるから、駄目なら出て行くよ」
「······別に、駄目じゃねえけど」
「じゃあお願いします。神崎君と暮らせるなんて嬉しいなぁ。」
「なあ」
パンが焼けて、皿に移す。
テーブルの席につき、手を合わせた。
「昨日言ってた、俺が好きだってやつ······俺はそんなの気にするつもりは無いから、何もかも今まで通りだ。変な期待はするなよ」
「しないよ。そんなのわかってる。」
「でも、俺が無意識にお前を傷付けていたなら、それは教えて欲しい。傷付けたいわけじゃない」
「あはは、神崎君は優しいね」
その言葉を首を振って否定した。
知らない間に傷つけて恨まれるのは面倒臭い。
「面倒な事が嫌なんだ。」
「ふーん?まあ、どちらにせよ俺は嬉しいよ。」
冴島の視線から逃げるように急いで飯を食って、皿を片付け、最低限の荷物を持って家を出る。
「神崎君!いってらっしゃい!」
「······いってきます」
合鍵、渡した方がいいんだろうけど、今は持っていない。
仕事の帰りに作りにいくしかないな。
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