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第22話
***
「神崎、地下にいる相良の様子見てこい」
「······何で俺が」
「お前、顔はいいからあいつが全部吐くかもしれないだろ。」
夏目にそう言われて、つい睨みつけた。
顔はってなんだ。
「何を聞けばいいんだよ。昨日立岡に全部調べさせただろ。」
「他人が調べて知ることと、本人が思っていることはまた別だろ。」
そう言われて渋々地下に降りた。噎せ返るほどの血の臭いがする。ここに来ると気分が悪くなるから嫌だ。
「おい」
鉄格子で隔離されたそこに項垂れるように女が1人座っていた。
「············」
「こっちを見ろ」
そう言うと、ゆっくりと顔を上げて俺を見る。
「······神崎彩葉か」
「話が聞きたい。お前の目的は何だったんだ。」
「貴方の母親って、イギリスの女優なんでしょ?凄く綺麗な人よね。彼女の出演してる映画、大好きで何度も観たわ。」
「······こちらの質問に答えろ」
俺の声はまるで聞こえてないかのように、相良は口を動かす。
「あの人は世界的に人気な人だったから、あの事件の時は世界中が悲しんだわ。その場に貴方も居たんでしょ?可哀想ね。心の傷は治ったの?」
「······黙れ」
世界的に拡散されたニュースだ。相良が知っていてもおかしくはない。けれど、どうして俺が母さんの息子だということを知っているのだろう。立岡と同じような情報屋から聞き出したのかもしれない。
「久しぶりの休日に、親子で遊びに行ったのよね。その帰りにまさか───······」
ドク、ドク、と心臓がうるさくなる。今すぐにこの女を殺してでも黙らせたかった。
「────愛し合っていたはずの夫に、刺殺されるだなんてね。」
プツン、と何かが切れた。
鉄格子の中に入って、女を見下ろす。
「母親が刺されても、見てる事しか出来なかったんでしょ?その時はどんな感じだったの?悲しいの?痛いの?」
「············」
「父親は捕まってるのよね。そんな父親の血が半分入ってる貴方は、母親の親戚をたらい回しにされて、中学生の頃に1人で日本に逃げてきた。」
手を伸ばし、女の首を掴む。
「そんな怖い顔をしてるのに、綺麗なのね。」
「お前、殺されてえのか」
「いいえ。事実を言ってるだけよ。ねえ、父親の動機は何だったの?世界中から愛された妻に嫉妬したの?」
ぐっと手に力を入れる。苦しそうに顔を歪めだした相良を見て、もっと苦しめと思う。
「流石っ、殺人者の、血が流れてるわね······っ」
「殺しはしない。許されてないからな。」
「っは、」
「けど、殺さなきゃいいんだろ。」
拳を作り、頬を殴りつけた。地面に倒れた相良はケラケラと笑い、俺もつられるようにくつくつと笑った。
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